長年にわたって研究を積み重ねてきた『日本語文学の国境と辺境』(仮題)をようやく『外地巡礼ーー「越境的」日本語文学論』(みすず書房)として刊行でき、第一段階はクリアした。 また、本年度は、二回の公開研究会を実施した(2017年7月10日、ゲスト:ジョナサン・グレード(ミシガン州立大学)及び同11月27日、ゲスト:朴裕河(世宗大学校)。 これらの研究においては、大日本帝国の覇権主義に拡張された「日本語圏」を、隣接諸言語としてのアイヌ語や琉球語、韓国=朝鮮語、台湾原住民言語や中国=華語などとの「接触領域」としてとらえる方法を用いたのだが、こうした手法を「南北アメリカ文学史」の研究にも応用しようという構想は、次なる単著『アメリカ大陸文学論』(仮題)のなかで活用できるはずである。 そもそも多言語空間であった南北アメリカ大陸が、コロンブスの到達以降、スペイン語圏、ポルトガル語圏、オランダ語圏、英語圏、フランス語圏へと再編されてきた歴史をふり返り、さらに日本語やイディッシュ語を用いる新移民の文学にも留意しながら広域的な文学史記述の可能性をさぐること。とりわけ研究や教育そのものが「語圏」による分断を既成事実化する形で進められている「アメリカ文学研究」なる制度の見直しに当たって、この作業はきわめて重要だろう。 また、この広域的な文学史記述の方法は、先住アフリカ民族の諸言語と、西洋列強の言語との接触・競合の上に成立しつつある「アフリカ文学」の包括的な理解にも応用できるはずで、そうした『アフリカ文学論』(仮題)に向けても基礎的な調査は終えることができた。
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