研究課題/領域番号 |
15K02464
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
申 明直 熊本学園大学, 外国語学部, 教授 (50389524)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 東アジア市民 / コミュニティー / 多文化 / 移住 / 韓国小説 / 韓国映像文学 / 超国家 |
研究実績の概要 |
2015年度は、韓国の小説・映像文学、特に東北アジア関連作品に現れている東アジア市民意識について調査研究を行った。そのため、中国の新華僑華人といえる中国朝鮮族のコミュニティーの実態調査を、①韓国済州島の投資移住、②韓国ソウル大林・安山等における労働移住、③韓国仁川における旧華僑、④中国青島・上海における新華僑の移住過程とコミュニティーの形成過程に焦点を合わせて実施した。その他、⑤東京の新大久保における東アジアコミュニティー、⑥アメリカ西部都市における東アジアコミュニティーについても調査研究を実施した。 以上のように、東北アジアの人々の移住先として、①韓国のソウル・京畿道、②日本の東京新大久保及び東京近隣地域、③中国の青島・上海等沿岸都市、④米国LA・サンフランシスコ等を対象に調査を行った結果、以下のようなことが明らかになった。 (1)旧華僑華人(山東系・南方系)の場合、西欧植民地期に与えられた「中間市民」としての地位が日本植民地期及び開発独裁期を経て一部制限されたが、日本と米国における南方系の旧華僑華人は山東系とは異なり、大規模の投資移住・定着者として成長した。 (2)新華僑華人(朝鮮族・その他)の場合、①朝鮮族は、韓・日・米の都市で働く労働移住が多いため(特に韓国)、依然として「使い捨て市民」としての地位しか与えられていない。②朝鮮族以外は、投資移住と留学経由の事務専門職への移住が、韓国の場合は済州島を中心に、米国の場合はカリフォルニアを中心に行われており、「歓待市民」としての地位が与えられている。 (3)華僑華人と韓人を比較すると、①韓人は、労働移住(生産職)も投資移住もほとんどないため市民としての地位問題があまり表面化しない反面、②華僑華人は、労働移住や留学・事務専門職としての移住、投資移住が併存しているため、市民としての地位問題は依然として重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度には、東北アジア地域における移住に伴って形成されているコミュニティーと東アジア市民意識に関する調査を主に行った。特に、中国の華僑華人コミュニティー調査のため、①韓国済州島における投資移住新華僑調査、②韓国ソウル大林・安山等における労働移住新華僑調査、③韓国仁川における旧華僑コミュニティー調査、④中国青島・上海における新華僑の移住過程と新しいコミュニティーの形成過程に関する調査を行った。 その他、韓国を含め東アジアの様々な国から移住してきた人々がコミュニティーを形成している地域での調査として、①東京の新大久保地域におけるコリアタウン及びアジア各国のコミュニティーの調査、②米国のロサンゼルス・サンフランシスコ等におけるKIWA等、コリアン及び旧・新華僑華人のコミュニティーの形成と現況の調査を行った。 このようなテーマをより深く調査研究するため、関連する日韓の専門家・研究者9人によるシンポジウムを韓国の聖公会大学で開いた。「東アジア市民社会を志向する韓国」というタイトルの下で、3部に分け研究発表を行った。申請者は「中国改革開放前後の華僑華人と東アジア」というテーマで、本研究の協力者である盧恩明は「雇用許可制と韓国シティズンシップ」というテーマでそれぞれ研究発表を行った。 また、8月の東京「新大久保映画祭」期間中には、「新大久保と多文化共生」というテーマのシンポジウム全体を企画し、総6名の研究者に発表と討論を依頼、シンポジウムを行った。その他、10月には「越境、変わりゆくアイデンティティー」というテーマのもとで「東アジア市民共生映画祭」の実行委員長を務め、第1部「越境する家族とアイデンティティー」、第2部「東アジアと越境する労働」というテーマの映画5本の上映とシネマトークを行った。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度には、(1)2015年度の調査研究の成果に基づいて、中国の新華僑華人ともいえる中国朝鮮族を描いた小説『青春恋歌』(2012)、『昭昭たる風景』(2014)等に加え、北朝鮮からの脱北移住生活を描いた映像文学『無産日記』(2010)、『クロッシング』(2008)等の作品分析を行う。 (2)東南アジアへの調査研究を行う予定である。特に韓国と日本への移住が多く、独特なコミュニティーを形成しているネパールとベトナム等を訪ね、1990年代に移住した経験を持ち、現在はネパールやベトナムに戻りアジア共生社会を目指して活動している人々を中心に調査を行う。特に、ベトナムの場合、韓国の関連小説の背景となっているハノイ、ホーチミン市の周辺、ベトナム戦争に参加した韓国軍に対する憎悪碑がある中部高原の調査を行う。 その他、韓国で近年急増しているベトナム・ラオス・ネパールからの結婚移住・労働移住者のコミュニティー形成過程及び東アジア市民意識の形成過程についても調査研究を行う。これに加え、カンボジアから韓国に行き、農業労働に従事する人の多い韓国の「地球人の停留場」などを尋ね、その関連コミュニティーの形成過程等について、より深く調査研究を行う。 (3) これまでの研究結果を、著書として出版できるように努める。2015年度に行ったシンポジウムにこれまでの調査研究結果を加え、2016年度の内に出版を行う。現在、申請者自身の論文を含め、8~9人からなる共著の責任編集を務めており、風響社で出版される予定である。第1部は韓国・東北アジア・東アジア市民、第2部は韓国・東南アジア・東アジア市民、第3部は韓国の代案経済と東アジア市民というタイトルで原稿をまとめ出版を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の出張により精算処理が間に合わなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費の精算に充てる予定である。
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