研究課題/領域番号 |
15K02471
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
藤縄 康弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60253291)
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研究分担者 |
今泉 志奈子 愛媛大学, 法文学部, 教授 (90324839)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 言語学 / 語彙意味論 / 日本語 / 英語 / ドイツ語 / コピュラ / ヴァレンス拡大 / 有題文・無題文 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、個体間の関係としての「所有」概念と「所在」概念のオーバーラップの可能性を批判的に検証しつつ、存在論的(ontological)に異なる両概念が、文的表現レベルで個体-状況間に適用される関数HAVEの作用を介して文脈や世界知の中に位置づけられることで、両概念の言語表現上の類縁性に帰着することを通言語的に明らかにすることを目的にしている。実態としての連続的現象を語彙分解の手法で再構築しようとする点で、言語研究における構造主義と認知主義との接点を探る試みである。 初年度は、従来から相互に密接に関係する、ないし、一方が他方に還元されるとも考えられている所有文と所在文の統語論的・意味論的関係を、日・英・独語を対照しつつ、主に (1)「所有」・「所在」を表す名詞句の内的構成、(2) 措定的コピュラ文との範列性、(3) ヴァレンス拡大、(4) 文の主題という観点から問い直す作業に着手した。 代表者・藤縄と分担者・今泉は、申請に先立って行った予備調査を共同して見直し、主に日独対照の観点から構築された仮説がどの程度、英語にも妥当し得るのか検討を重ね、その結果、概ね肯定的な展望を得るに至った。 その上で藤縄は、特に (4) に関連して日・独語の対照を進め、日本語における有題文・無題文に比肩し得る区別がドイツ語においても命令文・希求文に認められることを確認した。また、無題文にとっての「所在」概念と並行的に、有題文にとっては「所有」が特別な地位を占める見込みが得られた。 今泉は日・英語における基礎的なデータの収集・整理に従事した。特に(3)について、日本語における助詞「ニ」と「カラ」の交替現象の再検討を通して、日本語におけるある特定の「スル動詞」の解釈のおいて、英語には見られないような曖昧性が生じる現象を指摘し、この点において当初の予想以上に日・独語の並行性が明確にあらわれる見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論面においては当初の予定どおりの見通しが得られた。また日・独語、日・英語の対照研究にも前進があった。その一部は当初の想定を超えるものであったため、関連するデータの収集・評価・分析に遅延が生じたが、全体的としては肯定的な方向で進展している。
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今後の研究の推進方策 |
年度の比較早い段階で藤縄と今泉が直接面会し、前年度の研究成果と問題点を中心に意見交換を行う。その上で上述の研究目的、とりわけ (1) ~ (2) を重点課題とし、前年度同様の分担で関係図書の整備とデータの収集・整理を行うとともに、国内外の研究者とのコンタクトも継続する。その後、年度後半をめどに藤縄が所有文―所在文の連続性を分析的な観点から理論化する提案を行い、平成28年度末から平成29年度にかけてデータ面でさらに補強・検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
主題をめぐる日独語間の類似性が想定以上に強いことが分かり、これを踏まえたデータ収集方法の修正に迫られたため、当初予定していたデータ整理のための人件費を予定どおりには執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度までに執行できなかった金額は、上述の新たな見通しの下、本来2年目に予定していたデータ整理の作業を補強するかたちで執行する。
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