研究課題/領域番号 |
15K02477
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
吉田 悦子 三重大学, 人文学部, 教授 (00240276)
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研究分担者 |
谷村 緑 京都外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00434647)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 対話コーパス / 発話単位 / 相互行為言語学 / 話しことば / 文法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多くの表現形式が、話しことばにおける反復使用と相互行為の過程を経て発生し(emerge)、 定着するものであるという動的言語観に基づいて、文法と談話のインターフェイスを実現するメカニズムを明らかにすることである。とくに、文法と談話の橋渡しを担っている語用論的しかけを解明することに焦点を絞り、 以下の3つの視点から分析を進めている:(1)対話コーパスの分析を通して、自然発話の基本単位が文ではなく、節や句、かつその連鎖であることを検証する。(2)この表現連鎖のパターンを複数言語間で比較対照し、話しことばの優位性を主張する。(3)母語話者の直観に頼らず、個人の発話解釈の揺れを許容する「マグナ・シンタックス」(Miller, 2011)という言語理念を導入し、変異プロセスにかかわる語用論的役割を明らかにする。 まず、初年度は、日英語の対話コーパス(課題遂行対話8対話と自由対話10対話)を検証し、対話における発話 の基本単位が文ではなく、節や句、かつその連鎖であることを立証することを目指した。この研究の一部は、2015年7月の国際語用論学会(アントワープ、ベルギーにて開催)のパネルセッション(タイトル:Fixed expressions as units )にてパネリストの一人として研究発表を行った、分析方法は、相互行為言語学のアプローチを統一して取り入れ、ディスカッサント及び8名のパネリストによる意見交換を行うことができた。こうした議論の結果、発話単位を再検討し、会話のムーブ・ カテゴリーと呼ばれる課題に特化した発話機能分析だけではなく、英語、日本語、フィンランド語、スウェーデン語との比較も試みて、複数言語による検討を進めた。この発表に基づいて、現在論文を執筆中だが、言語間及びジャンル間による共通点や相違点を明らかにすることができたことは非常に有意義であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度行う予定のコーパス分析については、自由対話部分のコーディングと分析がやや遅れているが、課題対話については計画的に分析を行っている。一方、計画では、2015年度に本研究テーマとの関係で、海外在住の2名の研究協力者を招聘して国際共同ワークショップを開催する予定であったが、研究協力者の健康上の理由により実施することが叶わなかった。しかしながら、相互行為言語学系の研究者間の連携により、国際語用論学会の場でパネルディスカションによる発表と意見交換の機会を得ることができたことは非常に貴重であった。この場において、当初の予定した内容にほぼ匹敵する内容の研究成果を収めることができたと考えている。さらに、2名の研究協力者の健康回復を待って、2017年の国際語用論学会(ベルファースト、北アイルランド)において、文法の多重性というテーマでの国際共同パネルセッションの構築に向けて現在調整を進めているところである。 さらに、国内においては、研究代表者と研究分担者は個別の打ち合わせを行い、分析方針を確認するとともに、2名の連携研究者および1名の研究協力者とも2回の研究打ち合わせを実施し、研究計画と進捗状況について、話し合う場をもつことができた。話し合いでは、現在共通の参考文献として内容理解を深めている文法研究書について、研究テーマの軸と位置づけ、詳細に議論を行ってきた。さらに、関連する部分を解説しながら、各自の研究アプローチも織り交ぜて、分析を進めるための手法について検討しているところである。特に、複数言語間、あるいは同一言語でも地域方言の中で、異なる振る舞いを見せるような事例について検討を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画においては、1年目に決定した分析方針と方法にしたがって日英語の対話コーパス、および多言語的に 収集した事例の発話機能分析をおこなうことである。 分析の手順は、日英語について、(1)さまざまな形式のUFや逸脱文の分布から、対話構造と発話機能のモデル を策定する。(2)他言語の事例も観察しながら、文法構造の違いや談話的・語用論的要因を考慮して、インタ ーフェイスのしくみを記述していく予定である。 計画では、次年度は、2017年の国際語用論学会(ベルファースト、北アイルランド)に向けてのパネルセッションの準備が中心となる。文法の多重性というテーマでの国際共同パネルの準備を進めながら、随時部分的に、成果発表や情報共有のワークショップを行うことができるよう調整していく予定である。仮に、海外在住の2名の研究協力者の健康問題が解消しないとしても、国際学会の場で、複数の国際的な研究者同士での検討を進めることが可能な状況であるので、研究テーマをすり合わせながら開催に向けての準備に力を注ぎたい。 異なるジャンルの対話データの分析を組み合わせることで、相互行為的対話コミュニケーションの調整的役割の実相を明らかにすることを構想している。 この時点での成果については国内、および海外での関連学会にて共同報告する予定であり、それぞれ旅費を計上している。とりわけ、本研究の研究分野の性格や理論的モデルの専門性という点から、国際学会への出席・論文発表は研究を発展させる上で欠かせないものである。国内では得られにくい専門的な知識のフィードバックや 研究者間の交流も積極的に進める予定である。
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