研究課題/領域番号 |
15K02479
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 幸誠 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (30397517)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 指示詞 / 関係節 / ユピック・エスキモー / nominalization / 記述言語学 / 空間指示 / 認知言語学 |
研究実績の概要 |
今年度は研究計画にそって、ユピック・エスキモー語のインフォーマント調査を9月と3月におこなった。John. W. Toopetlook (元アラスカ大学ユピック語インストラクター)氏の協力のもと、約90時間の調査を行った。研究成果としては、現在得たデータを分析中であるが、(i) 30あるユピック・エスキモー語の指示詞において日常生活での使用に関してかなり詳細な部分まで分かったこと、また(ii) nominalization に関しては、ユピック・エスキモー語ではpronominal suffix の使用が文法的、義務的であるので、日本語の関係節に観察されるような「外の関係」はほとんど観察されないことなどが特に分かった。この二点を今年度、学会発表、論文発表等で示していきたいと考えている。 今年度の主な研究発表は昨年度のアラスカ州での調査と帰国後の分析結果によるものである。まず、nominalization のワークショップで、”Grammatical Nominalization and Denominalization: With Special Focus on Central Alaskan Yup’ik (Nominalization Festival II)"という発表をおこなった。また、国内外の研究者と国際ワークショップ (International Workshop on Cognitive Grammar and Usage-Based Linguistics)を開き、自身も、"Stable Grammatical Marking and Denominalization, という発表をおこなった。その内容をまとめたものを、『認知・機能言語学研究 I』に発表した。加えて、「見えないセンターラインと空間認知表現」という発表を第7回認知文法研究会において行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i) エスキモー語の現地調査に関しては、インフォーマントである John. W. Toopetlook 氏の協力得てかなり順調に進んでいる。特に指示詞に関して30時間ちかく、さまざまな場面での使用に関して有益な議論ができ、興味深い報告ができる準備が進んでいる。昨年の調査結果は今年の国際学会に応募しており、現在その結果待ちの状態である。 (ii)nominalization に関しては、1年目からの調査で十分なデータが集まり、現在国内の論文集に2本、原稿を現在執筆中である。またこのことに関する入門書の一部も執筆中である。特に日英語の比較から関係詞にかんして「内の関係」「外の関係」ということがよく議論されるが、ユピック・エスキモー語に関してはpronominal suffix の義務的表示からこの問題に切り込むことができることがわかった。この成果は大きいと感じている。 (iii) 最終年度の課題として、両者が一つのシステムとしてどのように機能するのかという問題が残る。どちらも名詞に関する概念であり、リンクするはずである。この点が今年度精緻化させてなければいけない点である。 (iv) ライス大学のSuzanne Kemmer 教授が来日された際、国内の同じ関心をもつ研究者と国際ワークショップを開催することができた。 またどう教授から研究のsuggeston もいただけた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も8月と3月にアラスカ州でインフォーマント調査を行う予定である。従来通り、John Toopetlook 氏に協力をお願いし、両期間合わせて80時間から90時間の長さができればと考えている。今までの調査で連絡体制等がしっかりしたので、このまま維持したい。 その上で、調査委のポイントとしては、方言の差異についても考慮に入れながら、 (i) nominalization をgrammaticalization の観点からどのように捉えることができるのか、ということをより意識しながらその本質に迫りたいと思う。つまり、類型論的、あるいは通言語的分析をより充実させたいと考えている。同時に、上でも書いたがここまでの調査に関して、国内の論文集に2本投稿・執筆中になっている、研究成果をうまく公表できるようにしたい。 (ii) 指示詞に関しても方言の差異に注目して調査をしてみたいと考えてる。また、海外の研究者、特にいわゆるメジャー言語でない言語を調査している研究者と意見交流を進めたいと思っている(現在、空間表現に関する国際学会に応募中であるが、採用の可否に関わらず、またこれから案内されるものもふくめて情報交換はいっていきたいと考えている) (iii) 日本国内でいるときは、フィールドワークのデータ整理とともに、最近の文献をきちんとフォローし、国際水準に見合うような研究成果にしたいと考えている。2年間の研究は順調に進んできているので、最終年度からは論文執筆とその公表を念頭に置いて研究に従事したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究と関係がある国際学会が2017年度に開催され、特別ワークショップもふくめた学会期間が8日間となり、その費用に本年度分を少し使う必要が出たため。繰越分はその国際学会の参加費用の一部にあてる。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年12月10日から18日までオーストラリア、キャンベラで開催される国際類型論学会、およびワークショップに参加費用に使う予定である。従来よりも学会の規模が大きくなり、開催期間が3日ほど長くなったため、その費用に充てる予定である。
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