研究課題/領域番号 |
15K02481
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
塚本 秀樹 愛媛大学, 法文学部, 教授 (60207347)
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研究分担者 |
堀江 薫 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (70181526)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本語 / 朝鮮語/韓国語 / 節連結 / 対照言語学 / 中止法 / 連用形 / 複合格助詞 / 言いさし |
研究実績の概要 |
研究代表者の塚本は,次のことを明らかにした。 先行する節・文が一旦中止しながらも,後続する節・文にかかっていき,両者が接続される現象において日本語と朝鮮語に共通している形式が動詞連用形であり,様々な問題を解く鍵を握っているこの動詞連用形は,次の性質を有している。第一に,動詞連用形は,朝鮮語に比べて日本語の方が広範囲にわたって活用される。第二に,朝鮮語における動詞連用形は,基本的には節・文レベルで用いられるが,日本語における動詞連用形は,節・文レベルのみならず,語レベルにまで入り込んで用いられる。 また,動詞連用形を用いた表現の一つに複合格助詞があるが,この複合格助詞は次の性質を有している。第一に,日本語で複合格助詞を用いて表現するところを,朝鮮語では同様に複合格助詞を用いて表現することができない場合に最も多いのは,接続語尾による従属節で表現することである。第二に,事態を叙述する際,単一格助詞を用いるだけでは,それが可能とならない場合があり,複合格助詞は,含んでいる動詞や名詞を活用し,それが有する意味で補うことによって,単一格助詞と接続語尾による従属節との間を埋め合わせる機能を備えている。 研究分担者の堀江は,次のことを明らかにした。 日本語と朝鮮語における「言いさし(従属節の非従属化)」現象及び「主節現象」について,言語類型論の観点から,他言語との対照も視野に入れつつ,両言語間の相違点と類似点を分析した。その結果,両言語ともに「言いさし」現象については,生産的であり,文末の述語形式の選択を多様化する上で効果的に用いられ,様々な語用論的効果を発現していることが判明した。一方,従属節内に主節的な現象が表象される「主節現象」については,日本語では名詞修飾節内部において直接引用や丁寧形などの様々な主節現象が現れるのに対して,朝鮮語では主節現象に厳しい制約が課せられていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
入手した言語学関係の図書・論文によって,これまでに行われてきた理論的なアプローチからの考察を検討し,入手した日本語と朝鮮語に関する参考書によって,まずは記述されている範囲内でそれぞれの言語の事実を確認した。 また,研究代表者及び研究分担者の直感が効かない朝鮮語に関しては,それぞれの所属研究機関で母語話者に対して入念なインフォーマント調査を行い,従来の参考書には記述されていなかったり記述が詳しくなかったりする言語事実を明らかにした。 さらに,それによって得られたデータと情報については,研究代表者と研究分担者の間でその都度,連絡をとって提供し合い,検討するとともに,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて意見交換を行った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度(平成27年度)及び今年度(平成28年度)において行った,本格的な考察のための基礎作業((1)先行研究の検討,及び参考書に記述された言語事実の確認,(2)朝鮮語のインフォーマント調査による言語事実の解明)は,次年度(平成29年度)も継続して行う。 そういったことにより,次のことを行う。特に動詞の中止法による節連結に着目すると,両言語間の相違点の一つとして,形式と種類が日本語よりも朝鮮語における方が豊富である,ということが指摘できるが,なぜそのようになっており,そのことから何に結び付いていき,どういったことが言えるのか,ということについて対照言語学からのアプローチで探究する。それに加えて,これまで不明確なままであった朝鮮語における個々の形式の使い分けについても考察し,明らかにする。 また,研究代表者が研究分担者のところに直接,出向くか,あるいは逆に,研究分担者が研究代表者のところに直接,出向くことによって,得られたデータと情報について検討するとともに,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて意見交換を行う。さらに,国内及び海外での学会に出席した際,あるいは国内及び海外の研究者のところに直接,出向くことによって,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて研究者と議論し,また助言を仰ぐ。 以上の研究成果を集約した上で,国内外の学会に出席して口頭発表し,また論文にまとめる作業を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度(平成27年度)及び今年度(平成28年度)よりも次年度(平成29年度)の方が全体の予算額を少なく見積もっていたが,次年度(平成29年度)には,継続して基礎データとなる日本語と朝鮮語の実例を収集し,それを整理する有能な研究補助者,並びに研究代表者及び研究分担者の直感が効かない朝鮮語についてさらなる入念な調査を行うためのインフォーマントに対して十分な謝金が必要であり,それを補充する目的でこのような措置をとることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
第一に,言語学関係図書と言語に関する参考書を購入し,充実させるのに,設備備品費が必要である。第二に,基礎データとなる日本語と朝鮮語の実例を収集し,それを整理することを有能な研究補助者に依頼するのに,謝金が必要である。第三に,研究代表者及び研究分担者の直感が効かない朝鮮語については,母語話者に対して入念なインフォーマント調査を行うのに,謝金が必要である。第四に,研究代表者と研究分担者は,常に密接な連携をとって本研究を進めることになり,時としては直接会って意見交換・議論を行わなければならず,これには旅費が必要である。第五に,研究代表者と研究分担者はともに,国内外の他の研究者を訪ね,意見交換・議論を行うことがあり,国内外の学会に出席して研究成果を発表することも予定している。こういったことにも十分な旅費が必要となる。
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