本研究の目的は、発話中のポーズ挿入に、呼吸や嚥下という生理的要因がどのように関与しているかを、音響的・生理的な解析を通して明らかにすることである。最終年度である本年度は、ポーズ挿入における言語的な要因(文法や発話の内容など)と生理的な要因(呼吸および嚥下)の関わり合いや制御に関する包括的な考察を目指して解析を行った。具体的には、日本語話者10名のデータをもとに、3種類の連続発話(リストの読み上げ、短いパラグラフの読み上げ、自発発話)を比較しながら、ポーズの時間長・挿入箇所、嚥下および吸気のタイミングなどについて詳細に解析した。 複数の文が連なる連続発話では、呼吸や嚥下という生理的な制約が重要な要素となる。このうち呼吸については多くの研究がなされているが、嚥下については、医療的な観点からの研究は多いものの、発話との関連でその特徴を体系的に明らかにした研究報告は今のところ見当たらない。本研究では、連続発話における嚥下に関して、いくつかの新しい知見を得ることができた。特に、リストの読み上げと自発発話(どちらも、あらかじめ設定されたパラグラフ構造を持たないため、嚥下箇所に関する制約が小さいという共通点をもつ)における嚥下を比較した場合、例えば、平均的な嚥下間隔はリストの読み上げでは約40秒であるのに対して自発発話では約50秒と、自発発話の方が間隔が広くなることや、嚥下間隔の話者間のばらつきも自発発話の方が大きいなどの点が明らかになった。また、リストの読み上げにおける嚥下箇所は100%が文間(2文の間)であるのに対して、自発発話では25%が文中(主部と述部の間など)であることも明らかになった。現在、これらの知見を含めこれまでに得られた結果および考察をまとめて、成果報告書を準備中である。
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