研究課題/領域番号 |
15K02492
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
田嶋 圭一 法政大学, 文学部, 教授 (70366821)
|
研究分担者 |
北原 真冬 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (00343301)
米山 聖子 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (60365856)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 音節構造 / 音声知覚 / 音声産出 / 英語 / 日本人英語教師 / 非語彙的音声変化 / 弾音 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,言語間の音韻構造の違いが音声言語の産出や知覚にどのような影響を及ぼすかについて,多角的な観点から検討することである。計画初年度は以下の課題に取り組んだ。 (1)音節構造の異なる単語の聞き取り 英語の"blow"-"below"のように音節の数で対立する単語を母語話者が発話した音声を刺激材料とし,聴覚呈示された単語がどちらであったかを回答する知覚同定実験を,日本人大学生を対象に実施した。同時に,上記のような音節数が異なる単語を聞き分ける際に聞き手がどのような知覚的手掛かりを利用しているのかを詳細に検討するため,音声再合成技術を用いて特定の音響特徴量を操作した刺激の連続体を作成し同様の知覚実験を行った。これらの実験結果の一部を日本音声学会国際講演会(2016年1月,東京大学)での招待講演にて発表した。 (2)外国語音声の産出や知覚と学習者の属性との関係について 英単語の音節構造の聞き取りについて,現役日本人英語教師と一般の日本人大学生を対象に英単語の音節数を同定する課題や英語の文の発話実験を実施し,成績の比較を行った。その結果の一部をICPhS2015(国際音声科学会議,2015年8月,スコットランド)にて発表した。また,アメリカ英語では歯茎閉鎖音/t d/は弾音として発音される(例:"Betty"が「ベリー」のように発音される)が,そのような弾音が日本語話者にはラ行音に誤って知覚される("belly"あるいは"berry"と知覚される)可能性を調査するため,上記のような単語の最小対を実験材料として用い,一般の日本人大学生を対象に知覚同定実験を実施した。その結果,歯茎閉鎖音が弾音として発音されると語彙の混同が生じること,特に/d/と/l/を含む単語の間で混同が生じやすいこと(例:"fading" vs. "failing")が見出された。この結果を日本音声学会第29回全国大会(2015年10月,神戸大学)にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画では次の3つの課題に取り組むことが挙げられた。(1)音節構造の異なる単語の聞き取り,(2)外国語音声の産出や知覚と学習者の属性との関係,(3)音の長さの獲得に寄与する要因の検討。このうち(1)および(2)については上述の通りの成果を上げることが出来た。(3)については計画通りに進捗したとは言えない。しかし,当初の計画とは異なるものの,その分(1)および(2)により多くの時間を配分することによって,この2つの課題については当初の計画より速く進んでいる部分もある。したがって,研究課題全体としては順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も上述の研究課題に継続的に取り組む予定である。具体的には以下の課題に取り組む。 (1)英語において音節数が異なる単語の聞き取りに関する実験データの分析をさらに進め,一定の成果がまとまったところで学会発表を行う。(2)同様に,特定の音響特徴量を操作した刺激の連続体を用いた知覚実験のデータについても解析を進め,学会発表を行うことで他の研究者からフィードバックを得ながら研究をさらに進展させる。(3)英語における歯茎弾音の発話について,これまで収集した日本語話者の発話実験データとの比較を行うため,統制群としてアメリカ英語母語話者を対象とした発話実験を実施する。(4)関連する課題として,歯茎弾音の知覚について,これまでに行った単語最小対を用いた実験をさらに進展させ,反応時間を指標とする語彙判断課題を実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
これまでに蓄積したデータ等を保存していたハードディスクが突然破損しデータの読み取りが出来なくなったため,専門業者にデータ復旧作業を依頼するための費用(85万円程度)を平成27年度予算に計上した。しかし,データ復旧の可能性が低いことがその後判明し,修理依頼を断念したため,次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究分担者の協力のもと,アメリカ英語母語話者の発話実験をアメリカで実施するが,データ収集にノートPCが必要となるため,その費用を次年度使用額から充当する(MacBookAir,20万円)。また,音声発話実験および音声知覚実験に使用している実験室の騒音レベルを測定するための騒音計を購入する(リオン社製普通騒音計,20万円)。さらに,収集した実験データの統計解析を行うため,統計解析ソフトSPSSのライセンスを購入する(30万円)。
|