研究課題/領域番号 |
15K02494
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
北上 光志 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (40234257)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アスペクト / 副動詞 / 形動詞 / 意味的他動性 / 受動化 |
研究実績の概要 |
平成27年度に続き、ロシア語副動詞のアスペクト(完了体と不完了体)にかかわる中和現象の研究を行った。16世紀から17世紀にかけての文献を完了体副動詞だけでなく不完了体副動詞にも光を当て詳細に分析した。不完了体副動詞は完了体副動詞のように使用例は多くないが、統計的処理を加えることにより一定の結果を出すことができた。この結果を受けて、さらに、形動詞の中和現象にもメスを入れた。歴史的に形動詞の短語尾形が派生して副動詞として使われるようになった。形動詞は、アスペクト、時制(現在と過去)、態(能動と被動)の区別がある。中和現象がみられるのは能動形動詞不完了体だけである。この形動詞の中和現象の分析については、副動詞の分析に提案した3基準に「形動詞が修飾する名詞の特徴と名詞の個別化」も加え、前景・後景との関係を調べた。形動詞の中和現象を分析している過程で、「他動性」の問題についても言及することになった。副動詞の分析の際にこのことに気付いていたが、形動詞にも同様な傾向が見られたので、他動性と受動化について本格的に考察することにした。意味的他動性の定義として「対象に及ぼす変化の度合い」を基準として提案した。この基準を使い、18世紀から21世紀にかけての小説に用いられている述語動詞を語彙的に15分類し、それらを受動化した。この結果、他動性の低い動詞群を受動化すると、本来の受動の意味以外に、自発と可能の意味が現れる傾向があることが明らかになった。これは副動詞と形動詞の中和現象が意味的他動性の低い動詞群に集中しているという事実と符合し、ロシア語学だけでなく一般言語学への重要な貢献となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学務などの負担により、海外での研究発表が当初の予定よりも少なくなったが、研究はおおむね計画通り進んでいる。本年度の研究によって、副動詞と形動詞という分詞形の中和現象が述語動詞の意味的他動性のハイアラーキーと深く関係していることが明らかになった。このことは当初予定していなかった大きな発見であった。現在、海外の研究者たちとこのことについて意見交換を行い、言語学的普遍性との関係も探っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、中和現象と動詞の意味的他動性のハイアラーキーとの関係を言語学的普遍性の観点からさらに深く追及する。直接発話構文の地の文における述語動詞の語彙的バリエーションと命令文における述語動詞のアスペクト的中和現象を分析ターゲットにする。これらの研究成果を国際学会や海外の学術雑誌に発表し、研究の総括を行う予定である。ジョージアのバトゥミ市、ロシアのサンクトペテルブルク市、カザフスタンのアスタナ市での国際学会での研究発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
「旅費」について、外国語学部の学科主任業務と全学の入試業務のために、予定していた国際学会に複数回参加することができなかった。この影響で、研究発表のために必要な研究図書の「物品費」と通信費などの「その他」についても執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年10月に、トルコのインスタンブール市で開催された国際ヴァーチャルフォーラムにおいて多くの研究者と情報交換を行い、次年度、ジョージア(旧グルジア)のバトゥミ市、ロシアのサンクトペテルブルク市、カザフスタンのアスタナ市での国際学会で研究発表を行うことになった。これに伴い「旅費」、研究のための「物品費」、海外の研究者との情報交換のための郵送費や通信費に使用する。
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