平成29年度は過去2年間のまとめという意味もあり研究目標を二つにした。まず、平成28年度の研究で明らかにしたロシア語分詞のアスペクトに関わる中和現象と意味的他動性の低い現象の相関関係をさらに別の事例を分析して実証する。次に、通時的なアスペクト研究のまとめとして、ロシア語のアスペクトと前景の関係を文学作品で用いられている動詞と分詞(副動詞)を統計的に分析することにより解明する。1)平成28年度の研究では「ソリチズム(規範文法から逸脱する言語使用)が意味的他動性の低い現象と深くかかわっている」ことを指摘した。このことを立証するために、ロシア語の所有表現に関わるロシア語副動詞の行為主体と本動詞主体の関係を分析した。この両者はロシア語規範文法では必ず一致しなければならない。ところが、主文の本動詞の意味上の主語と文法上の主語が所有者と所有物という関係で、両者の不可分性の高い場合ほど副動詞と動詞の行為主体が違っていても非文として扱われないことを統計的に解明し、ソリチズムと意味的他動性の低い現象の密接な関係を立証した。2)従来の研究では動詞と分詞のアスペクトと前景の関係を通時的に総括して説明していない。ロシア文学黎明期の19世紀前半から現代の20世紀後半までの主要な文学作品で用いられている動詞と分詞(副動詞)と会話表現(前景)の位置関係を統計的に調べた。その結果、次のことが判明した:完了体動詞は時代とともに後景から前景で用いられやすくなり、不完了体動詞は時代に関係なく後景で常に用いられやすく、完了体副動詞は時代とともに前景から後景で用いられやすくなり、不完了体副動詞は時代とともに後景から前景で用いられやすくなった。
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