研究課題/領域番号 |
15K02495
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藏藤 健雄 立命館大学, 法学部, 教授 (60305175)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 空項 / 省略 / 選択関数 / スコーレム関数 / 形式意味論 |
研究実績の概要 |
本研究では、「空項」とよばれる発音されない主語や目的語の本質を解明することを目指す。空項の分析は、PF削除やLFコピーを用いた広義の統語部門での操作を用いたものが主流であるが、本研究では、これらの分析では説明できない例を示し、意味論/語用論的観点からの分析を行う。具体的には、空項は文脈で卓立した属性を表し、スコレーム化選択関数によって不定名詞的に解釈されるという分析を試みる。 28年度は、空項の先行詞がない2つのケースの研究を行った。ひとつは深層照応とよばれるもので、言語的に先行詞は存在しないが、視覚的に利用可能なケースである。例えば、図書館に3冊の言語学の新刊書(B1~B3)が陳列されていて、言語学の教員Aと 同僚Cがこれらを目にし、AがCに「(1) うちのほとんどのゼミ生は、もし [ ] 安かったら [ ] 買うのに」と言った。Aのゼミ生は5人(S1~S5)いて、S1は統語論に興味をもっているからB1を、S2は意味論に興味を持っているからB2を、S3は音韻論に興味を持っているからB3を、それぞれ安かったら買うとしよう。この状況で(1)は真と解釈される。ここで重要なことは、空項 [ ] は条件節より広い作用域をとるが量化詞より下で解釈される点である。この事実はスコレーム化選択関数を用いることによってうまく捉えられる。 空項の先行詞が存在しないもう一つのケースは、「(2)ほとんどの競輪選手はレース前に入念に自分の自転車を点検するが、ほとんどの競艇選手はあまり [ ] 点検しない」のような例である。この解釈は意味的含意関係と語用論的推論によって得られる。(1)や(2)が統語論的な操作で説明できないことは明らかであり、意味論/語用論的は説明の妥当性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、国際ジャーナルに投稿し、1度目のmajor revisionを求められた。その際、修正に時間がかかり、提出期限の延長を請求し認められた。そのため予定より進捗状況は遅れている。 今回(29年4月)2度目のmajor revisionを求められた。具体的には形式的連結問題 (formal link problems) とよばれる問題への対応と、28年度に行った作用域平行性の問題の精緻化を求められている。いずれも査読者から具体的な方向性・解決案を示唆されているので、それに沿って改定する予定である。今後も修正要求がくる可能性は十分あるが、その都度査読者のコメントに対応していく。
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今後の研究の推進方策 |
上記投稿論文の修正を優先的に行う。また、第1ドラフトでは扱っていたが、紙幅の関係で査読者から削除を求められた議論や関連するデータがいくつかある。最終年度である29年度は、これらを別の形でまとめて出版できるよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外(北米)での学会に参加予定であったが、投稿論文の修正を優先したため、参加しなかった。そのため予算を執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
9月にドイツで開催される意味論の学会 (Sinn und Bedeutung 22) に参加予定である。
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