研究実績の概要 |
本研究課題は,言語の「自然さ」,「~語らしさ」というのはどういうことかについて理論化し,説明を試みるものである。すなわち,客観世界に対する事態認識の言語化,つまり,構文間の連関と対立の関係に反映される話者の事態認知上のカテゴリー化の動機づけを明らかにする。具体的には,人為的行為の結果状態を表す現象を対象とし,諸言語がどのような構文を用いるのが自然かを,母語話者から収集した用例と,同じ内容が各言語で翻訳されたパラレルコーパスによる用例収集をもとに検証する。また,使用された構文のあり方について意味と機能と構造の面から有機的・相関的に特徴づけて検証し,認知類型論の発展に資するとともに,その成果を外国語教育の現場へと還元することを目的とする。 研究方法としては, 1) 文献資料からの用例収集, 2) パラレルコーパスからの用例収集, 3) 母語話者への聞き取りによる用例収集, 4) 収集したデータの分析と意味地図の記述, 5) 母語話者への使用意識調査, 6) 認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証の 6段階の手続きによって行ってきた。 3年目にあたる2017年度は,前半は調査対象言語を韓国語にしぼり,主に次の3点を実施した。 1 パラレルコーパスの電子化および用例収集-書きことばだけでなく,話ことばについても,韓国語に翻訳された日本の近代から現代にかけての文学作品や韓国ドラマの日本語訳つきシナリオを入手し,電子化に着手しつつ,関連する構文を収集した。 2 母語話者への聞き取り-韓国語の母語話者数名を対象に,設定した状況を提示し,母語でどのように表現するのが自然かを調査した。 3 理論的枠組みや言語現象の包括的整理-文献資料をもとに,人為的事態の結果の状態を表す各構文に関する記述的なデータの収集作業を進めた。 その他,トルコ語の文献を入手し,パラレルコーパスの電子化に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では, 言語の「自然さ」,「~語らしさ」ということはどういうことかについて理論化し,説明を試みるものである。具体的には日本語と類型論的に近いとされる言語におけるアスペクト・ヴォイスの現象について文献資料,パラレルコーパス,母語話者への調査などによって資料を収集し, 文法的意味の多機能的拡張を記述する。同時に母語話者の意識調査をとおして言語間の事態の捉え方の違いを検証する。 研究方法としては, 1 文献資料からの用例収集, 2 パラレルコーパスからの用例収集, 3 母語話者への聞き取りによる用例収集, 4 収集したデータの分析と意味地図の記述, 5 母語話者への使用意識調査, 6 認知様式や伝達慣習との関連性の分析・検証の 6段階の手続きによって行う。 このうち当該年度では韓国語を中心に2,3, 4を実施した。パラレルコーパスについては,日本語から韓国語へ翻訳された長編小説の電子化を行い,また,韓国ドラマの日本語訳シナリオの電子化も行った。その他にもトルコ語,エストニア語へ翻訳された長編小説を入手し,電子化の作業を行っている。パラレルコーパスから収集したデータをもとに日本語と韓国語の受動文を比較,分析し,その成果を国際会議等で公表した。 パラレルコーパスの作成にあたっては,日本語から韓国語,トルコ語,エストニア語すべての言語へ翻訳された作品がそう多くなく ,トルコ語,エストニア語の作品は日本では入手が困難である。また,周囲にトルコ語やエストニア語の母語話者が少なく,これらの母語話者への調査は未着手であった。しかし,次年度に向けてエストニア語話者にはすでに調査への協力をとりつけており,次年度計画している現地での用例収集とその分析に向けた準備を同時進行で行なう予定にしている。このように,本課題研究はおおむね順調に進展しており,予定通り研究目的を達成できる。
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今後の研究の推進方策 |
各言語ごとに以下の手順で調査・分析を進めて行く。 当初の予定ではトルコ語およびエストニア語の調査を行う予定であったが,文献の入手が困難で分析するほどのデータが収集できていない。したがってまずは, トルコ語とエストニア語のデータの収集に努める。1 パラレルコーパスの電子化および用例収集: 引き続き用例を収集する。テレビドラマなど話し言葉においてもパラレルコーパスを選定し,電子化するとともに,関連する構文を数多く収集し,蓄積する。2 調査結果の分析・記述: 収集した用例を分析し,その表現形態と意味的特徴,単一言語内における多機能的拡張のありかたや言語間の 描写の違いなどについて詳しく分析し,各言語のアスペクト・ヴォイスの現象の特徴をまとめる。それと同時に,分析結果をアスペクトとヴォイスを統合的にとらえた「意味地図」にまとめ,普遍的な拡張の方向を明示する。3 母語話者への使用意識調査: 収集した用例の分析により,日本語との間で表現のズレが顕著であった場面をリストアップし,その場面においてどのような表現を用いたらいいかを,各言語の母語話者にアンケート調査する(30 項目程度)。その結果をもとに,同一事象の描写の仕方の差異と言語間による事態の捉え方の違いとの関係について検証する。4 調査は日本語母語話者(仙台在住の大学生(東北大学))とロシア語も含め各言語母語話者 (上級日本語学習者)各数十名ずつを対象に行う。トルコ語,エストニア語,ロシア語については国内でまとまった数母語話者を募るのが困難なため,現地の大学で調査を実施する予定である。 以上の方法によりアスペクト・ヴォイスの現象を精査し,「言語の構造的類型と社会文化的認知の型や伝達慣習との相互関係」の解明,つまり言語の「自然さ」の理論化に貢献する。
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