研究課題
上代日本語の名詞化節では言語類型論の観点から主語は属格「ガ」「ノ」「ゼロ」格の3つの表示形態が存在し、意味的、統語的に「示差的主語表示(DSM)」として特徴づけられる。近代日本語において、DSMが消失し「が」が主格として確立する過程をOxford Corpus of Old Japanese (OCOJ)、国立国語研究所の「日本語歴史コーパス」を使用して広範に調査した。言語は能格型から対格型へ、対格型から能格型へと変化することが知られている。格システムの変化は言語を特徴づけるもっとも基本的な構造変化を伴い、変化のトリガーにヴォイスの交替(受動態、反受動態、使役交替など)が関係することが知られている。本研究では日本語の格システムの変化にはいわゆる「心理使役交替(Alexiadou 2016)」と呼ばれる交替が重要な役割を果たしたことを資料調査をもとに提案した。上代語には目的語経験主が統語的に表示されない、いわゆる「非人称心理述語」が存在する。この構文は原因主(causer)が必ず「が」で表示される使役文である。本研究では近世初期日本語でこの非人称心理述語が非対格動詞に再分析されたことが「が」の主格化の直接の原因であると提案した。また海外の共同研究者とオーストロネシア語派の格変化と日本語の格変化のトリガーをそれぞれ比較検討した。オーストロネシア語派の能格は日本語と同様に名詞化節の属格が起源である。2つの言語の格変化を比較すると、日本語は一般にみられるヴォイスの変化がトリガーになるのに対して、オーストロネシア語派では、フォーカス構文の短文への再分析がトリガーになると提案した。2つの言語の比較研究により、同じ属格起源であっても格システムの変化は、その言語の統語的特徴により、必ずしも同一の構文がトリガーとならないことを提案し研究をすすめた。
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Studies in Diversity Linguistics, Language Science Press
巻: 19 ページ: 401-422