研究実績の概要 |
強変化動詞IV, V類の過去複数形に見られる、いわゆる長母音過去(long vowel preterite)の問題に新たな光を当てるべく、研究を開始した。 平成27年5月に、LVC 2015 (Fukuoka University) で口頭発表した論考 "The Laryngeal Theory and the Narten Hypothesis: Towards an Explanation of Some Morphophonological Characteristics of the Germanic Strong Verbs" では、ナルテン型の未完了形が、ゲルマン語強変化動詞IV, V類の過去複数形反映されている可能性があると指摘し、印欧祖語の動詞体系の中にナルテン型の現在形や未完了形を取る動詞が生産的に存在したことを論証することがいかにして可能かを、考察した。喉音理論(the laryngeal theory)が広く受容されるまでに、印欧諸語から様々な独立的な証拠が集められた。これと同様に、ナルテン仮説が広く受け入れられるようになるためには、(Jasanoff 2012, Svensson 2012-2013などによって)目下提出されている証拠以外にも、独立的な証拠を見出す必要があると論じた。 平成27年12月に、日本歴史言語学会第5回大会(北海学園)で口頭発表した論考 "A Scheme for a Morphological Conflation Approach to the Origin and Development of the Germanic Strong and Preterite-Present Verbs"では、ナルテン型の未完了形がゲルマン語強変化動詞(特にIV, V類)の生成に関与している反面、過去現在動詞の生成には関与していないという仮説を提示した。この仮説を用いると、双方の動詞のIV, V類複数形に見られる母音階梯の違いのみならず、ゴート語におけるヴェルナーの法則適用の有無をも独立的に説明ができることを論じた。異なる2つの事象をひと揃いの仮説で説明できるならば、当該仮説の真理性が高まることを示した。
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