研究実績の概要 |
子音クラスタ調音時の舌等調音器官の運動をwave system (NDI Corp.)により計測した。本課題においては、咬合面計測および口蓋計測を行なうことによりwave system単独での計測に比べて調音器官の運動をより精密に計測できることが期待された。この手法を用いて子音クラスタ調音時の調音器官の運動を精密に解析した。 実験ではまず日本語母語話者の子音クラスタ調音(/pl/, /pn/, /bl/, /bn/)について計測したところ、調音器官の運動に関しては個人差が大きいことが明らかになった。すなわち、ある日本語母語話者の場合、第2子音が/l/, /n/に関わらず第1子音から第2子音に向け舌先が上昇していたが、下唇および下顎については第2子音が/l/の場合は下降、/n/の場合には顕著な下降は見られず一定の位置が保たれていた。一方別の話者では、第2子音が/l/, /n/に関わらず下唇が下降、舌先もあまり上昇が見られなかった。 さらに舌先、下唇、下顎の平均運動速度を計測したところ舌先の運動速度において、ある話者では、第2子音が/l/の場合は/n/に比べて顕著に速く、他の話者では逆に/n/の場合が/l/に比べて顕著に速かった。このような現象は今まで観測されておらず大変興味深い。この現象は、日本語には一般に子音クラスタが存在しないことから、日本語母語話者は、子音クラスタの調音に慣れておらず発話者により子音クラスタ調音のストラテジが異なることにより生じたのではないか、と解釈された。 以上より本課題において舌位置精密測定を行なったことで今まで漠然と考えられていた子音クラスタ調音時の発話者によるストラテジの違いが実験的に確認された。
|