研究課題
最終年度である本年度は、昨年度実施した実験の追試を行った。具体的には、時間副詞と遊離数量詞が事象のアスペクト情報にどのように影響するのかを調べ、またその効果が被験者の自閉症スペクトラム指数(AQ指数)と相関するかを検証する実験である。Yoshimoto (2018)では遊離数量詞を時間副詞よりも先行して呈示し、限界性の不一致の効果を時間副詞で検知することを目指して実験を実施した。結果としては時間副詞位置よりも遅れた領域で効果が見られ、またその効果も部分的に予測と異なるものであった。その点について、遊離数量詞の位置が埋め込み節主語よりも前に置かれ、いわゆる「かき混ぜ語順」であったこと、また埋め込み節の動詞が十分に統制できていないことが指摘された。そこで、Kato (2020)では埋め込み節をいわゆる正規語順に変え、時間副詞との距離をやや短くしてYoshimoto (2018)の追試を行った。39名の被験者が参加して実験を行った。それらの被験者はAQ指数を測るアンケートにも参加してもらった。関心領域である時間副詞の位置で、3要因の交互作用が観察された。AQ指数の高い群では数量詞タイプと時間副詞の交互作用はなかったが、AQ指数の低い被験者群では交互作用があり、期間を表す時間副詞の条件の場合に遊離数量詞の組み合わせの刺激文で読み時間の遅延が見られた。この結果は遊離数量詞がまだ呈示されていない動詞句によって決定される事象が限界性を持つという予測を生み出していたことを示唆する。この効果がAQ指数の低い被験者群でのみ観察され、AQ指数の高い被験者群では観察されなかったことは、大変興味深い。AQ指数の高い被験者群に属する被験者は即時的に事象の限界性に対しての予測を生み出せていなかったことが窺え、AQ指数とリアルタイムの文理解の関係に貴重な観察を提供するからである。
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言語研究
巻: 156 ページ: 67-96
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