日本手話音節の(不)適格性に関与する音節構成要素の組み合わせ特徴を明らかにすることを目的として研究を行い、研究成果を発表した。 まず、複数の日本手話の辞典内のイラスト等を動画撮影し、複数の日本手話母語話者の協力を得て、音節の適・不適の判定を行った。その結果、約2600の適格音節、約500の不適格音節を収集した。これらを、音節構成要素(手型、位置、動き、掌の方向など)に分解し、記号化された音節構成要素の列として記述し音節構成要素を単位とするデータベースを作成した。 適格・不適格音節の音節構成要素の組み合わせを比較し、音節の不適格性に関与している音節構成要素の組み合わせを抽出した。その結果、タイプ3(両手使用、両手手型が異なり、利き手のみが動く音節)は、位置が体前面の空間か胴体に限定され、かつ利き手が他の部位に接触する場合、接触部位は非利き手上肢に限るという制約(ただし複合語、指文字使用、CL等を含む語や複合語環境を除く)や、タイプ3で非利き手b手型(5指をすべて伸ばした手型)・掌前向き・中手骨上向きの場合は両手接触が義務的であるという制約等の存在を確認した。これらには複数の音節構成要素の組み合わせが関与している点が特徴的である。 本研究では音節適格性の検討に機械学習を援用した。分類器にはロジスティック回帰モデルを用いた。いくつかの音節構成要素は、機械が学習しやすいように細分化し、音節を約840次元数の0と1からなる数値ベクトルとして表現した。さらに、(不)適格性に関与する音節特徴の組み合わせを探るために、共起可能な音節特徴のうち任意の2つを組み合わせた約175千個の音節特徴の組み合わせを加え機械学習を行った。その結果、分類器が(不)適格性の判断に利用した上位 20 個の組み合わせ特徴を抽出した。これらの組み合わせ特徴を言語学的に分析し、(不)適格性の要因になるかどうかを検討した。
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