研究課題
最終年度においては『西儒耳目資』(金尼閣著、1626)につき、1)その依拠した音系とはどのような性格をもつものであるのか、2)同書が大量に収録する異読音はなにに由来するのか、というふたつの角度から考察し、以下の各項について具体的に論証した。①『耳目資』は当時の官話音系に依拠している。ただしその音系の内部は単一ではない。官話音系内の方言音が異読音として収録されている;②『耳目資』は主として『洪武正韻』(七十六韻本)に、従として『古今韻会挙要小補』にもとづき編纂された。『耳目資』所収字には『集韻』由来とおぼしきものがみられるが、それらは『挙要小補』からまごびきされたものである;③『耳目資』所載の字音にはその標音作業において旧韻書中での音韻地位をもとに当時の北方音をあてたものが多々ある。そのため実際に即さない字音が出来している。一部の異読音はその種の字音である、等々。詳細は2018年8月、西安で開催された国際学会で発表した。その後内容を補訂し「再論『西儒耳目資』音系的性質問題」を脱稿した。同稿は『葉宝奎教授寿慶文集』(厦門大学出版社、2019年刊行予定)に収載されることが決定している。本研究課題はパスパ文字資料・朝鮮文字資料・唐音資料・欧文資料等の対音資料の調査・収集をすすめ、対音資料ごとに詳細な音韻分析をおこない、その結果を相互に比較・検討するとともに、従来の韻書・韻図による研究成果と照合することで、近代漢語音韻史研究に新たな局面をひらくことを目的としたものである。研究期間中、『蒙古字韻』『洪武正韻訳訓』『西儒耳目資』『清俗紀聞』等について分析作業をすすめた。いずれの資料も大部であり、予想以上の労力と時間とを要したため、所期の計画どおり進捗したとはいえない。しかしながらこれまでにえられた研究成果から、さきにしめした研究目的の一端は着実に達成されたものとおもわれる。
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『中国音韻学研究 第二十届国際学術研討会論文集』(陝西師範大学文学院、人文社会科学高等研究院)
巻: 下巻 ページ: 592-610