研究課題/領域番号 |
15K02540
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中田 節子 (有田節子) 立命館大学, 言語教育情報研究科, 教授 (70263994)
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研究分担者 |
江口 正 福岡大学, 人文学部, 教授 (20264707)
岩田 美穂 就実大学, 人文科学部, 講師 (20734073)
前田 桂子 長崎大学, 教育学部, 准教授 (90259630)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 九州方言 / 条件表現 / モダリティ / 認識的条件文 / バッテン / 二段動詞 / 終止形 |
研究実績の概要 |
1. 認識的条件文の位置づけ(有田):日本語の条件表現における認識的条件文の位置づけを明確にした上で、その地理的変異の諸相と歴史的変遷の関係の全体像について、ポーランドで開催された国際会議で企画したパネルセッションにおいて発表した。また、日本語学習者の誤用例との関連についての論文を紀要に掲載した。 2. 九州方言の活用体系の分析(江口):北部九州の方言の終止形は、共通語で「る」にあたる部分が、方言によって促音になったり長音になったりすることについて、大分市方言における詳細な調査に基づき、「る」にあたる形が撥音(「ん」)になる条件は、当該方言に特徴的に表れる二段活用と連動することを示した。古典語で上二段活用だった動詞群が上二段か下二段になる地域は「ル」で終わる動詞終止形が撥音と交代するという性質を共有し、いわゆるラ行五段化している地域は、終止形が促音になる地域であることを確認した。これらの終止形は、撥音による否定形「ン」とバッティングを起こす可能性があるため、それを回避する形で下二段活用が残存しているという仮説を九州方言研究者が集まる研究会で発表した。 3. 近世長崎の「バッテン」(前田):近世長崎におけるバッテンの推移と従来指摘されてきた「ばとても」語源説をめぐって文献に基づき考察した結果、バッテンには二つの流れ、すなわち、「接続詞(あれ、それ)+バッテン」が「指示詞+バ(ヲバ)+トテ」からの成立であること、「用言+バッテン」は「未然、已然+ばとて」から「う+ばとて」、「う+ばってん」を経由して「終止形+ばってん」からの成立であることが推定された。バッテンの成立時期は近世中期以前で、当初は条件表現の接続助詞としての用法であったものが次第に単純逆接に偏っていったとみられることを近代語・九州方言の研究者が集まる研究会で発表するとともに、一部を大学の紀要に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の予定では、推論過程を考慮した調査方法の確立、九州の各地域での使用実態調査の実施、地域文献資料の調査の3点を中心に行う予定だった。このうち、使用実態調査については、八女市出身の話者の聞き取り調査、大分市、天草市での現地調査を行った。特に、天草市においては、本渡、牛深、苓北、深海で調査を実施した。これにより、すでに調査している上天草市との違いも明らかになるなど、大きな成果を得た。 地域文献資料の調査については、担当する予定の2名の分担者のうち、1名の分担者が長期にわたって体調を崩すという予期せぬ事態がおこったが、残り1名の分担者が長崎県を中心に資料の分析を行ない、一定の成果をあげた。 調査方法の確立については、十分に進まなかったが、その原因の一つは、イラスト・スキットを作成する材料が不足していた点にある。それを補うために、天草調査では、積極的に自然談話の録音、会話の様子を録画した。ここでえられた材料をもとに、次年度、調査方法について再検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査の確認を行うため、佐賀・甑島・長崎・出水などで条件形式を調査する。新たに、椎葉村(宮崎)も加える。熊本県(熊本市、天草市、上天草市)については、地震災害の復旧・復興の進行度合いを見ながら調査が可能であれば実施する。また、福岡県八女地方で「ナラ」に一本化している地域があるため、城島地域との異同を確認するために調査を行う。これに合わせて、各方言での動詞終止形や助動詞終止形の調査も行い、二段活用やラ行五段化のあり方との関係を確認する。 このような調査に先立ち、認識的条件文の調査方法について検討する。 地域文献については、昨年度の調査で、現代の単純逆接であるバッテンは、バトテモという条件表現から成立したことが明らかになり、観察の過程で、バッテンは「推量ウ+バッテン」や「打消ン+バッテン」という上接語に特殊拍を取りやすい傾向が見て取れたので、今年度は、特にその点を中心に調査する。さらに、長崎方言の特徴として義務的条件表現の「ンバ」や終助詞「バイ」、係助詞「バ」など、/ba/が多く現れるが、それらの音環境と比較してみることで、バッテンが接続する上接語の遅速をより詳細に出来るのではないかと考えている。また、近世~昭和の文献を広く調査することによって、条件表現「ンバ」や終助詞「バイ」の発達過程を見ていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた会議および出張の回数が少なくなったため、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
文献資料の調査のための出張回数が増える予定なので、そこに前年度の残額をあてる。
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