研究課題/領域番号 |
15K02543
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山本 雅代 関西学院大学, 国際学部, 教授 (40230586)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 受容バイリンガル / 英語-日本語 / 言語使用 / 言語発達 / 談話方略 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1) バイリンガル児および母親の言語選択・使用の動的、流動的軌跡を審らかにする、(2) その動的、流動的な軌跡を方向づけるものは何か。Lanza (1997) の「談話方略」を枠組みに仮説生成を行うものであった。 (1) のバイリンガル児(以後、女児)の言語使用については、経年に伴い日本語の使用が減少、平成27年度にはほぼ皆無となった。研究開始以後、(原則) 各年度の初月に採取された録音データ全体における、女児の日本語使用の割合の推移(平成20年度~平成27年度)を示すと、43.5%→32.5%→42.6%→7.2%→13.3%→9.8%→5.1%→2.3%であった。一方、母親については、経年に伴い、英語の使用が増えている。上記と同データにおける、母親の英語使用の割合の推移を示すと、1.6%→17.0%→11.6%→24.8%→27.7%→50.6%→30.5%→45.5%であった。 いずれについても、多少の凸凹はあるものの、言語変化の軌跡が明瞭に見てとれる。 (2) の動的、流動的な軌跡を方向づけるものは何かとの問いには、まだ結論的なものは出せないが、この問いに関連して、Lanza (1997) の「談話方略」を枠組みに仮説生成を行う点については、次のような (暫定的な)仮説を検討しているところである。Lanza (1997) は、バイリンガルの子どもの言語使用を巡る親子間の折衝の有り様を、モデル化(「子どもの言語混合に対する親の談話方略」)しているが、このモデルでは、親が主導的に子どもの言語使用の様態を調整すると仮定されている。しかし、筆者は、これまでのデータ分析から、主客転倒、むしろ、親が、女児の言語使用の変化に曳かれて(対応せざるを得ない状況に置かれて)、自身の言語使用を調整しているのではないかと考えうる結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
毎月のデータ収集 [母親と本研究の主要対象者である受容バイリンガル女児(以後、女児)との会話の録音]と文字起こしについては、順調に進んでいる。しかしながら、女児が、反抗期に差し掛かったところで、年2回の母親、女児、報告者の3者による面談では非協力的な態度を示すことが多くなってきているために、言語能力を評価する簡易なテストの実施などを予定していても、実施が難しい場面が出てくるようになっている。何らかの工夫を凝らし、この状況を改善する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主要対象者である受容バイリンガル女児(以後、女児)は、日本語の産出がほぼ皆無になった現在でも、受容については、文脈からの手がかりに依拠しながらも、母親との会話レベルではかなりの理解力を示している。ただ、実際に、それがどの程度の理解力であるのか、文脈の手がかりを最小限に抑えた環境下において、日本語そのものの構造や文法レベルでどの程度の理解力を発達させているのかを、言語能力を評価する簡易なテストを用いて明らかにしたいと考えている。また、産出能力についても、可能であれば、どの程度のレベルにあるのかを、やはり簡易なテストを用いて明らかにしたいと考えている。
簡易なテストはこれまでにも何度か実施してきたが、女児の年齢が上がったことを勘案して、現在の年齢に見合った課題、また前述のように、女児の成長に伴う研究への非協力的な態度に対する対応という点からも、女児が興味を抱き、かつ現時点での女児の生活年齢、精神年齢に相応しい課題となるものを用いる必要があると考えている。
現時点では、ある場面を語る課題に相応しいSequencing Cards とよばれるカードセットの利用を検討しているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査旅費に係る費用を当初予定より抑えることができたため、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、(1)バイリンガル女児の言語能力を評価をするための新たな検査道具の購入を考えている、(2)調査旅費に係る費用、現地での面談謝金、録音謝金に充てる、(3)文字起こし費用に充てる。
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