研究課題/領域番号 |
15K02546
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
内田 充美 関西学院大学, 社会学部, 教授 (70347475)
|
研究分担者 |
家入 葉子 京都大学, 文学研究科, 教授 (20264830)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 言語接触 / 歴史社会言語学 / 多言語 |
研究実績の概要 |
今日的な歴史社会言語学の枠組みで、英語の変異と変化を言語接触の観点から動的にとらえなおそうとすることが本研究の特徴である。最終的には現代英語研究と英語史研究分野が別個に行ってきた研究成果の連結を意図しているが、本課題の研究期間には、史的文献を通じて、語彙を超えたレベル--文法や談話のレベル--で言語接触の諸相を明らかにすることを当面の目標としている。 ラテン語やフランス語、オランダ語に明るく、ヨーロッパ各地の文献を英語に翻訳したWilliam Caxton(15世紀)のテキストを取り上げ、多言語使用者の特徴が言語使用にどのような影響を及ぼしているかを観察するための資料の掘り起こしから研究に着手した。英国に印刷技術をもたらしたCaxtonの刊本については、書誌学の分野で、数世紀にわたり膨大な研究がなされているが、翻訳者としての側面に注目されることは比較的少なく、彼自身が翻訳し印刷したとされる作品については、元言語版が何であったのか、写本(手書き)だったのか刊本(印刷物)だったのか、それらが現存しているのか、どこに所蔵されているのかという情報が明らかでない傾向がある。さらに、元言語版の著者や使用言語・言語変種についての先行研究には大陸側で行われてきたものも多く、英語以外の言語で書かれた論文や資料を丹念に探索する必要がある。 初年度は、Caxtonがフランス語から翻訳したとされる作品のうち、語彙を超えたレベルでの言語接触の分析に最適と考えられる作品の選定、書誌情報の整理、翻訳元言語版についての調査を行い、適切と判断した作品の英語版とその他言語版の画像資料の入手に注力した。British Libraryはじめ各地の図書館に収蔵されている資料には、後世の研究者による直筆のメモが綴じ込まれていることがある。そのような性格の手書きメモのうち、2点を書き起こし、共著論文にまとめて刊行した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膨大な歴史を持つ書誌学と英語史の分野における先行研究の調査が必要であること、また、英語だけでなく、翻訳元の言語についての先行研究にも目配りが必要であること、英語以外の言語で書かれた論文や著書を参照する必要があることなどの事情により、資料の収集のための事前調査にもかなりの労力を要している。このことは、あらかじめある程度は予測していたことである。引き続き、丹念に資料にあたり、テキストを読み解き、異なる言語版の間の対応や異同を確認していくとともに、言語接触について意義ある分析を行うために適切なテキストの掘り出し作業を継続していく。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、近年注目されるようになってきた歴史社会言語学の枠組みで、伝統的な英語史研究の再評価を行うと同時に、コーパスやデータベースも積極的に取り入れることで、英語史にかかわるさまざまな研究分野を統合することを意図し、特徴としている。近年は、コーパスとは別の意味での電子化、すなわち写本や初期印刷本の画像の電子化も進んできており、本課題でもデータを入手した。これまで言語研究の方法論として両極に位置していた電子テキストと手書き資料や初期印刷本の研究を総合的に行うことが可能となってきたのである。 次年度、研究代表者は、主として資料の比較対照分析を行う。言語使用の具体例を詳細に観察することによって、言語接触のプロセスを明らかにするための実例を積み上げていく。具体的には引き続きWilliam Caxtonが英語に翻訳した作品を対象に、他言語版との比較対照研究を進めていく。Caxtonがフランス語版を入手したとされる経路について、当時の大陸および英国での多言語社会という背景と、印刷ビジネスという背景で、より深い調査と考察を行うことが必要である。 研究分担者は、初年度に引き続き、通時的な観点での専門知識を生かしながら、分析の対象とする言語現象の絞り込み、仮説の設定を行う。研究代表者と研究分担者は、外国語の影響が認められる文献の掘り起こし作業を継続する。その際、研究分担者の所属大学が所蔵するデータベースのうち刊本を集積したEarly English Books Online、手書き資料を集めたBritish Literary Manuscripsts Onlineなどのデータベースと、本課題で画像データとして入手した資料の両方を利用する。手書き資料や初期印刷本のテキスト書き起こし、校訂作業も必要に応じて遂行していく。 同時に、英語の歴史における言語接触をテーマとした論文集の編集作業を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
翌年(2016年)度に支出する、資料のデジタル化費用について見積もりを取ったところ、予定外に高額であったため、当年度の予算のうち、その時点で残っていた金額をそれに充当することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記のように、当初より予定していた資料のデジタル化費用の一部として支出する。
|