研究実績の概要 |
アメリカ手話を対象とした研究(Supalla 1990等)において移動構文の述部が連続動詞構造(SVC)を持つ事が指摘され,その後日本手話(JSL)においても複数の述語が並んでSVCを成し,そのうち後方の述語が文法化のプロセスを経て様々な統語要素を生む可能性がある事が議論されている(市田 2013,2015,今里 2007, 2010, 2012, 2015, 2016等).音声言語におけるSVC構造については多くの研究成果があるが,手話言語においては, SVCや文法化の過程について実際のデータに基づいた実証的研究の数はまだまだ多くなく成果が待たれる分野である. プロジェクト開始年である本年度には, JSLサイナー協力のもと, SVCの述部を含む表現を撮影したデータを整理し,まずはSVCに含まれうる動詞群のリストを作成した. JSL動詞の画像と,それに対応する日本語の単語の記述にとどまらず,意味毎に分類し,動詞分類(空間/一致/非一致), SVC形成時の語順傾向,文法化可能性などの統語情報を付して表形式にまとめた.公開自体は次年度の予定である. 次年度以降,このリストの動詞で構成されたSVCの語順,組み合わせ,文法化可能性等についてより詳細な分析を行うための基礎データを準備した事になる. 必ずしもJSLに堪能でなくても利用できるように,このリストには,画像と手の動きについての詳しい解説を加えたので,公開後は研究者やサイナーだけでなく,JSL学習者も利用することが可能になる.現在全国の自治体において手話言語法が相次いで成立していることから,今後多くの人々が,JSLという言語についての情報を必要とする事が予想される.本成果はこのような社会の要請に答えるための試みでもある.
|