研究課題/領域番号 |
15K02551
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
今里 典子 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (90259903)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 連続動詞構文(SVC) / 日本手話(JSL) / 移動構文 / 文法化 / 複雑述語 / 類辞(CL) / 類型論 |
研究実績の概要 |
コンサルタントを増やし、日本手話(JSL)の移動構文以外のデータも追加した上で、本年度に予定していた2つの課題、1) 連続動詞構文(SVC)と類似した複雑述部との関係についての考察と、2) JSLのSVCに現れる動詞群の意味特徴について観察を行った。 1)については、まず既に提案したJSLのSVCを認定する8つの条件のうち、②動詞連続の間に別の語が含まれない、という項目について、「別の語」には、動詞に「手の形」およびその「位置」として抱合される類辞(CL)と、そのCLを導入する為に現れる名詞(句)は含まない、という規定を加える必要性を認めた。その上で、条件①述部を構成する複数の動詞の間に「頷き・間」などがない、と、改訂後の条件②は必須であると考える。①②以外の6つの条件が満たされるか否か等によって、動詞の結びつき方と結びつきの強さは変化をする。JSLのSVCにはいわゆる日本語の「テ」にあたるような要素はほぼ見られず、動詞が並ぶだけであるが、「当てる」に対応するJSLの語は文法化が進み、従属関係を示すマーカーとなっていると考えられる可能性がある。これが現れると⑤動詞は出来事が起こる順番に配列される、という条件を満たさない例や、①に反して「頷き」が現れる例が観察される場合がある。このような表現は、複雑述部の別のカテゴリーに対応するような表現である可能性がある。 また2)については、JSLではいわゆるSVCに起こる動詞群について、意味的に大きな制限は認められないが、そのうち文法化する動詞群は、他の音声言語で報告されている文法化する語と多分に共通性が見られる。また文法化後の文法的機能についても類似性が認められる。この事を示すため、移動動詞「来る」の文法化の変化の道筋と、文法化する環境、文法化によって現れる機能を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コンサルタントとのセッションによる新しいデータ撮影に関しては計画以上に順調に進んでいると言える。但し一方で、データ数が多くなった事から記述の作業が少し残ったことと、本務との関係で研究時間が計画通りに十分確保出来なかったことから、少し分析が遅れ、その結果、論文は作成したが年度内の公開までに至らなかった。 また今回集めたデータの分析から、本研究申請当初の計画で想定していなかった点について新たに調査の必要性が明らかになった。これは副次的成果の1つとして記述しまとめた。今後、JSLの構造を明らかにするために、別の新たな課題として研究する価値と必要があると認識している。 計画以上に進んだ面があり、また新たな重要な研究課題を見いだせたという事実はあるものの、研究計画全体としては少し遅れていると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
データ撮影については研究の全期間を通して記述作業を進める予定なので、コンサルタントと調整をしながら継続する。研究時間を確保する為に、まず既に準備している論文を早めに発表出来るように対応した上で、ある程度自動的に行える作業や事務的な作業については協力者等への委託の方法を考えて、次年度の研究を計画通り進めていく。ここまでの成果をまとめて、文法的要素の生まれるプロセスとその環境を特定し、先行研究の仮説の妥当性を検証し、文法要素が生み出されるシステムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
特に今年度の下半期においては、本務の計画変更等によって当初予定していた研究に十分時間を使う事ができず、それにより年度後半に予定していたセッションの延期、機器の購入、また旅費の使用等ができなかったことなどから、それらの分の経費が次年度に繰り越されることとなった。 データ撮影については研究の全期間を通して記述作業を進める予定なので、引き続きコンサルタントと調整をしながら可能な限り頻度を増やし継続する。研究時間を確保する為に、まず既に準備している論文を早めに発表出来るように対応した上で、ある程度自動的に行える作業や事務的な作業については協力者等への委託の方法等を考えて、研究者が本来の研究に時間を割り振る事が出来るように工夫して、次年度の研究を計画通り進めていき、成果の発表を行う。
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