一旦定義によってSVCが認められると、次の6つの条件:①事態を構成する出来事が起こる順番通りに動詞が配列される、②全動詞に共有される類辞(CL)が事態の同一物を指示する、③動詞は事態のすべてをカバーする、④すべての動詞が主語を共有する、⑤すべての動詞が方向一致制限に従う、⑥述部の途中で(事態を観察する)視点の変更がない、を満たしていることが期待される。それらのうちどの条件をいくつ満たさ“ない”のかが、構文の種類によって異なる傾向を確認した。例えば「ボールがゴールに転がって入る」ような典型的な移動の事態を表す移動構文では全ての条件を満たすが、「男がボールをゴールに蹴り入れる」ような事態を表す使役移動構文では④を満たさず、時にはさらに⑤をも満たさない例もある。受益構文と結果構文でも、④を満たさない場合があるが、⑤は満たす傾向がある。逆に必ず2つの動詞の主語が一致しない「父が息子に料理を作らせる」ような使役の事態では、②および④~⑥が常に満たされず、SVCで表現することがかなり困難である。 またSVCで条件を全て満たす構文で文法化が進む傾向が確認できた。条件を全て満たす移動構文、④を満たすことができる受益・結果構文のSVCでは文法化の例が見られる。 次に、移動構文・受益構文・結果構文の文法化が進む例について、2つの動詞で構成されているSVCの隣り合う動詞の意味は、例えば行為動詞:食べる+移動動詞:行く、のように、意味的関連や因果関係が見られない場合ほど、文法化している傾向がある。逆に、移動の様態動詞(走る)+移動動詞(行く)のように、隣り合う動詞に深い意味の関連や強い因果関係が見て取れる場合には文法化が進んでいない傾向が見て取れる。SVCの移動構文の中で相互に関連しながら文法化が進み意味が拡大する動詞「いく・くる」を例として利用し、上記の結論を明示的に図示した。
|