研究課題/領域番号 |
15K02553
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
渡辺 美知子 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, コーパス開発センター, プロジェクト非常勤研究員 (60470027)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フィラー / 日英語対照研究 / コーパス / 節境界 / 発話生成プロセス |
研究実績の概要 |
日本語と英語におけるフィラーの分布や働きの共通点と相違点を調べるために『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』中の模擬講演と,自作の英語話し言葉コーパス“Corpus of Oral Presentations in English (COPE)”を用いて,引き続き分析を行った。まず,COPEにおいて,直前の節境界の深さ・種類と後続節頭のフィラーの出現率との関係を調べた。フィラーの出現率は,書き言葉の文境界に相当する深い境界と判断された境界直後の節頭の方がそれ以外の節頭よりも有意に高かった。一方,日本語では,文中の節境界直後のフィラーの出現率の方が文境界(深い境界)直後のフィラーの出現率よりも高かった。このことから,フィラーに反映される発話生成上の困難の種類には両言語で違いがあることが示唆された。すなわち,英語のフィラーには比較的大きなまとまりの概念生成上の困難が反映されるのに対し,日本語のフィラーが反映するのはよりローカルなレベルの発話生成プロセスであることが推測された。さらに,COPEで従属副詞節直後と等位節直後の節頭のフィラーの出現率を比較すると,前者の方が高かった。これは,従属副詞節を含む文の方が”so”や”and”で繋がれた文よりも構造が複雑なためではないかと思われた。日本語では,接続助詞「が」や「けれども」など直後の節頭の方が,条件節や理由節などの従属副詞節直後の節頭よりもフィラーの出現率は高く,英語とは異なる結果を示した。「が」や「けれども」はその前に複数の節を含むことが多く,比較的深い境界で用いられる傾向がある。したがって,その直後の境界は,英語の”but”のような等位接続詞前の境界と同等なものとして取り扱うのは不適切であることが示された。一方,接続助詞「て」に続く節も英語の”and”や”so”で繋がれた節と同種のものとして考察する必要のあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,節境界におけるフィラーの出現率に影響を及ぼす要因を,日本語と英語の話し言葉コーパスを用いて分析した。今年度行った分析によって,これまでに知られていた要因に加え,後続節中の引用節(人の言葉の引用)数がフィラーの出現率に影響することが明らかになった。すなわち,節頭のフィラーの出現率は節中の語数の増加に伴って上昇するが,引用節中の語数はフィラーの出現率の上昇に寄与しないことが示された。この結果によって,発話生成の際の認知的負荷が引用文と地の文では異なり,人の言葉を引用するときの認知的負荷はそれ以外の場合よりも軽いことが示唆された。 英語の話し言葉では,節が”and”や”so”などの等位接続詞で始まるとき,そこが文頭なのか文中の節頭なのかの客観的判断が困難である。これまで1名のラベラーの主観的判断によって文境界を暫定的に認定していたが,今年度,一定の基準のもとに,3名のラベラーによる文境界ラベリングを実施した。このラベルによって,より客観的な境界の深さの認定が可能になると考える。
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今後の研究の推進方策 |
節境界のフィラーの出現率を日本語と英語で比較するためには,節境界の分類法をそれぞれの言語でさらに検討する必要のあることが,これまでの研究で明らかになった。どのような分類をすれば,より妥当性の高い対照研究が可能になるかを引き続き研究課題とする。また,日本語でも英語でも,フィラーの種類別の分析を推し進める。さらに,話者属性とフィラーの使用との関係も,両言語において調べ,比較する。研究成果を精緻化し,国内外に発表する。“Corpus of Oral Presentations in English (COPE)”の公開準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が平成29年4月に気管支喘息を発症した。病状悪化の可能性があるため,長時間のフライトと気候の変化を伴う,遠隔地での学会参加ができなかった。また,体調不良のため,構築中の英語コーパス"COPE"に対する形態素解析結果の付与がまだ残っている。症状は改善しているので,体に負担がかからない形での成果発表やコーパスの完成に努める予定である。
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