文境界,節境界にはフィラーがよく観察される。これは,文や節などの談話の切れ目では,その先の発話内容や表現を考えるのに時間がかかるためと考えられる。そこで,まず,文頭,節頭に着目し,そこでのフィラーの使用頻度に関係すると考えられる要因を,節頭のフィラー全体と,その中でも高頻度の「エー」「アノ」「マー」について,『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』コア中の模擬講演(107講演)を対象に調べた。その際,性別,年齢などの社会言語学的要因も考察対象に加えた。検討した要因は,①話者の性別,②年齢,③学歴,④講演経験,⑤直前の境界の種類,⑥節中語数,⑦節頭の接続詞の有無,の7つである。節頭フィラーの出現確率との間に有意な関連が見られたのは①性別,⑤直前の境界の種類,⑥節中語数の3要因であった。フィラーの出現確率は男性話者の方が女性話者よりも高く,文境界や深い節境界の方が弱い節境界よりも高かった。また,予測されたように,節中の語数が多いほど,フィラーの出現確率は上昇した。これらの結果から,節の開始時点で節レベルのプランニングがかなり先まで行われていることが示唆された。 次に,頻度の高い3種類のフィラーを個別に調べると,男性の使用率が高いのは「エー」と「マー」で,「アノ」については男女間に有意差はなかった。直前の境界の種類との関係では「エー」のみ,強い節境界よりも文境界のほうが出現確率が最も高かった。この結果から「エー」は「アノ」「マー」よりも深い境界で用いられる傾向のあることが示された。節中語数との関連については「アノ」と「エー」はその効果が全体の傾向同様有意であるのに対し,「マー」にはその効果は観察されなかった。「マー」は,節頭のプランニングの負荷の大きさとは別の要因によって用いられていることが示唆された。 以上から,フィラーの種類によってそれらを引き起こす要因に違いのあることが示された。
|