本研究は、平安・鎌倉期に日本で撰述された仏教漢文の文体特徴の解明を目的としている。研究最終年度である平成29年度の研究成果は以下の通り。 〈注釈書類の調査研究〉高山寺蔵『顕密差別問答』(済暹撰)、『心月輪秘釈』(覚鑁撰)についてデータベース化の基礎作業を終えることができた。さらに本調査研究の過程において、あらたに覚鑁の教学に関わる談義の記録の存在に注目し、『打聞集』(高山寺蔵、三帖)の基礎調査および翻刻作業に着手した。この成果の一部を「高山寺蔵『打聞集』について 付・翻刻(一)」として発表した。本資料は、談義の聞書きであり、教釈・説話と性格の異なる内容、文体を併せ持つことから、本研究で措定する仏教漢文資料・文体範疇において紐帯的位置づけとなる可能性を持つ文献であり、今後調査研究を継続することとしたい。 〈論義記録類の調査研究〉『法勝寺御八講問答記』については、前年度までに入力を完了した天承元(1131)年~久安六(1150)年分について、入力本文の整備および漢字データベースの作成を継続中である。 〈周辺資料の調査研究〉漢字文・漢字片仮名交り文・平仮名文と三種の異なる表記様式を持つ『三宝絵』を選定し、文章構造把握の指標としての接続語の比較を行い、表記が異なる文章相互に漢文的な文章構造の枠組みが共有されていることを明らかにし「前田本『三宝絵』の文体について―説話の構造と接続詞の関わりから―」として発表した(なお本論は、平成27年度に行った学会発表について、その後追加調査の成果を加え論文化したものである)。さらに『探要法花験記』(醍醐寺蔵)については、データベース作成の成果の一部として「醍醐寺蔵探要法花験記漢字索引」を作成し発表した。
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