研究課題/領域番号 |
15K02564
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川口 敦子 三重大学, 人文学部, 准教授 (40380810)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国語学 / キリシタン資料 / ローマ字 / 表記 / 写本 |
研究実績の概要 |
アビラ・ヒロン『日本王国記』諸本の章節の対応関係を整理し、『日本王国記』のローマ字書き日本語の表記をフランシスコ会イベロ・オリエンタル文書館(AFIO)所蔵文書23-1(チンチョン報告書)の表記と比較した前年度の研究成果を、学術論文として公表した。 この成果を踏まえて、さらにスペイン系のドミニコ会による日本関係資料(17世紀)の表記と比較し、スペイン系資料は版本ではイエズス会のローマ字表記を踏襲していたが、手稿類にはイエズス会とは異なる表記規範が存在していたことを明らかにした。この研究成果は、国際学会での口頭発表として公表した。 前年度に引き続いてAFIO(旧パストラーナ文書館)とイエズス会スペイン文書館アルカラ・デ・エナーレス(AESI-A、旧トレド管区イエズス会文書館)において、近代以前の日本関係文書の所蔵調査を行った。これは前年度の調査における未確認部分を補うものであり、雑誌論文として公表した。松田毅一『在南欧日本関係文書採訪録』(養徳社、1964)の目録に記載されている資料のうち、AESI-Aのものは全て確認し、同書に記載されていない資料も数点確認できた。AFIOのものは、目録による所蔵確認が困難な一部の資料を除いて、概ね所蔵を確認できた。これによってAFIOおよびAESI-A所蔵の日本関係資料の閲覧と研究が容易になり、関連する多くの研究に資することが期待される。 キリシタン資料の資料性と表記の特徴について、国立国語研究所「通時コーパス」共同プロジェクトや国内シンポジウム講演において、本研究の成果を活用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アビラ・ヒロン『日本王国記』のローマ字書き日本語の表記について、前年度の研究成果を学術論文として公表した(「アビラ・ヒロン『日本王国記』諸本と日本語の表記―チンチョン報告書との比較を通して―」、『三重大学日本語学文学』28)。 本研究の対象となる日本関係資料を多く所蔵するAFIOとAESI-Aで現地調査を行い、資料研究の基礎となる所蔵調査と資料収集を概ね終えることが出来た。本調査の成果を「旧トレド管区イエズス会文書館および旧パストラーナ文書館の日本関係文書のカタログ番号について(2)」(三重大学人文学部文化学科紀要『人文論叢』35)として公表した。 前年度の研究成果を発展させて、17世紀の非イエズス会スペイン系資料の日本語のローマ字表記の特徴を明らかにし、「イエズス会資料を踏襲した版本」と「版本とは異なる規範を持つ手稿類」の違いを指摘できた。これは、後発の集団が日本語をローマ字で表記しようとする際に、先行する集団が用いた表記をどのように継承するかという、通時的な問題と関係するものであり、研究テーマに大きく寄与する成果である。 以上の研究成果に関連する口頭発表を行った(国外国際学会2件、国内研究会・集会2件、国内シンポジウム1件)。特に国際学会での口頭発表では、キリシタン資料を使った日本語研究の成果と課題を、関連分野の研究者に広くアピールすることができた。 ヴァチカン図書館所蔵「バレト写本」の翻字を継続中である。スペイン系の手稿類であるコリャード自筆『西日辞書』(ヴァチカン図書館所蔵)の原本を閲覧し、複製本では気づけなかった表記の問題点を確認した。なお、当該年度に予定していたマカオ歴史文書館での調査は、目的の資料の画像の多くが解読可能な解像度でオンライン公開されたことにより、訪問による調査は見送った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの現地調査では閲覧や収集ができなかった資料の調査を行う。 前年度までにAFIOとAESI-Aで収集した日本関係資料や、マカオ歴史文書館の資料を精査し、16世紀末から19世紀頃までの資料に現れるローマ字書き日本語について調査し、時代ごとの表記の変遷を追う。 キリシタン資料を中心に、版本・印刷資料における日本語のローマ字表記の変遷を整理し、手稿類における表記と比較して、その影響関係を明らかにする。 キリシタン資料を中心とした日本語のローマ字表記について、前年度までの研究成果を踏まえて通時的に比較し、俯瞰する。
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