研究課題/領域番号 |
15K02570
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
京 健治 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60284014)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 並列表現 / 古典語終止形 / 「不十分終止」用法 / シシ語尾形容詞 / 助動詞「つ」 / 反復用法 / なり / 選択的並列 |
研究実績の概要 |
並列表現史を記述することを目指し、特に、古典語終止形にその来源が求められてきた接続助詞「し」「たり」「なり」を中心とした研究を行っている。 本年度は、その研究成果として、以下の研究発表を行った。①「シシ語尾形容詞の成立の背景再考」(平成27年度岡山大学言語国語国文学会:平成27年7月25日(土)/岡山大学文学部)、②「並列表現「~つ~つ」の消長に関する考察-動作作用の並列表現の推移補遺-」(第65回西日本国語国文学会:平成27年9月20日/長崎大学)①について。〈連体形終止の一般化〉が完了したとされる室町期以降に於いても、形容詞「―シ」語尾・助動詞「つ」「たり」「なり」といった、古典語終止形が「不十分終止」(=並列用法・因由用法)に使用されている。その中で注意されるのは、シク活用形容詞の「不十分終止」が本来の旧終止形「―シ(=はげし)」ではなく、「―シシ(=はげしし)」語尾で現れることにある。この問題については、拙稿「「シシ語尾形容詞と「不十分終止」」(『岡大国文論稿』第43号)で論じたが、これを踏まえて、「―シシ」語尾形容詞発生段階(鎌倉期頃)に於ける発生理由について、その言語的背景を探った。②について。「~つ~つ」による並列形式は発生段階では反復用法に与っていたが、室町期以降、例示用法にも与る等、用法面での拡張が観察される。しかしながら、この形式は近世期以降、用法を狭め、現代語に見るように「差し差されつ」「組んづほぐれつ」といった慣用的な表現形式へと転ずることになる。「~つ~つ」の消長について「~たり~たり」形式の展開等も視野に入れながら、その衰退理由を考えたものである。また、並列表現「~なり~なり」及び「~なりと(も)~なりと(も)」の消長を明らかすべく、近世期の文献(洒落本等)を中心に用例を採取し、両形式の用法上の特徴などの分析を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
来歴に古典語終止形が求められている助詞「し」「たり」「なり」を主たる考察対象として、当該助詞の発生の経緯を明らかにしつつ、並列表現が如何なる展開を遂げたのか、その史的変遷を記述するのが本研究の目的となる。今年度は、そうした課題の一端として、「シシ語尾形容詞」と「~つ~つ」の消長について、それなりの見解を提示することができた。「~つ~つ」の消長に関しては、発表内容をもとに論文とし、現在採択の審査結果を待ちという状況である。また、研究対象のひとつでもある選択的列挙の史的変遷を記述することに関しては、「~なり~なり」及び、それと類した用法を有する「なりと(も)」について、近世期の洒落本等の用例を採取し、当該表現形式の展開を分析する上での準備作業を概ね終えたと考えられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
古典語終止形にその来歴が求められている助詞「し」「たり」「なり」に於いて、「~し~し」及び「~たり~たり」の成立・展開及びその文法史的位置付けについては概ね、出来上がっている。選択的並列の「~なり~なり」に関しては、既に、その成立経緯についての私見を提示しているが、当該語法が並列表現史上、如何なる意義を有するのかという歴史的な位置付けについては、残されたか課題である。選択的並列に与る諸表現形式の様相を見据えながら、より詳細な記述を行うべく、調査・分析を進めていく。特に近世期以降の使用実態を中心に分析することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した関係図書(古典文学作品等の文献資料の文献)を購入することを予定していたが、申請後、招待発表の依頼があったり、勤務校での教育改善プロジェクトに採択されるなどもあり、そちらの業務を優先せざるを得なかった。結果として、所有している文献での再調査に努めたというのが現状である。また、旅費に関しても、今年度は学内の教育改善に関する業務に従事することになった為、当初予定していた研究会への参加が叶わなかったからである。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究での研究成果を十全たるものにするには、今年度、購入予定であった古典文学作品等の文献資料は是非とも必要なものである。言語の実態を明らかにする為には多種多様な言語資料から用例を採取する必要がある。その為に、翌年度分とあわせた形での助成を希望する。
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