日本語に於いて並列表現に与る形式・助詞は、他の文法形式からの転成によるものが多い。並列表現史を記述するにあたっては、まずは、並列表現に与る諸形式が如何なるプロセスによって、並列の意味を担うようになったのか、さらに、各々の形式の意味用法の展開を記述する必要があろう。今年度は、「昆虫が好きな人もいれば嫌いな人もいる。」といった「~も…ば、~も…」形式の成立に関して考察を行った。当該形式は「ば」による条件表現からの転成によるものであり、近世後期頃から見られるようになっている。条件表現に与っていたものが、如何にして並列用法を派生させたのか、それが近世後期頃に行ったのはなぜかを課題とし、その発生の背景に、「ば」による条件表現が、確定条件から仮定条件へとその条件表現表現の性格を転じることを述べた。 また、シシ語尾形容詞には、「命はおしし所領はほししをしやほしやのがき侍。」(今川了俊)のように、対比的表現に使用されるものがあり、現代語に言う接続助詞「し」による表現に相当する語法が見られる。このシシ語尾形容詞による並列表現は、近世期の文文学作品での会話の箇所にも見られ、口頭語として使用されていたと考えられる。シシ語尾形容詞によるこうした用法の性格を検討するとともに、並列表現史での位置付けを試みた。 並列表現史を記述する上では、過去から現代に至るまでにあって、並列表現に与っていたと思しい諸形式を抽出するという基礎的な作業が不可欠であろう。本研究はそうした観点から、上記の二つの事象を取り上げた次第である。
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