1 痛み語彙の記述と医学的な裏付けの調査 痛みの質・程度を言語的に表現した「McGill Pain Questionnaire」を方言に翻訳したものを佐賀方言、徳島方言について試作した。また、全国の諸方言に見られる痛みをあらわす語彙(オノマトペをのぞく)について引き続き調査、医学的な観点で記述を試みた。「遅い痛み」と「速い痛み」に対応した語が得られ、これをもとに記述を試みたが、語数も少なく、効果的な記述とは言い難い結果となった。 2 全国の理学療法士へのアンケート実施 全国約100名の理学療法士に、方言で困った経験の有無、患者の出身地、重要な方言、ツールの利用(効果的かどうか)についてアンケート調査を実施した。対照群として看護師も同様の調査を実施した。看護師よりも方言を知りたいとするニーズが高く、ツールのニーズも高いことがわかったが、多くの分野の語彙(医療に関係しない分野)のニーズが高いことも明らかとなった。 3 理学療法士への聞き取り調査 沖縄で実施した。方言で困った経験などの聞き取りと同時に、1で示した試作ツールなど「方言の手引き」の評価について尋ねた。その結果、「McGill Pain Questionnaire」の方言訳はほぼ使えないこと(この検査自体を行うことがきわめて稀)、患者のそれまでの日常生活の把握が必要なため、必要な方言は多種にわたることがわかった。生活の質を高めることが理学療法のゴールになるためである。したがって、介護分野での方言ニーズに近い面があり、痛み語彙の記述では現場に対応できないことが明らかとなった。沖縄のケースでは、具体的には、各種の行事名と内容、食事、住宅の構造などが患者の生活の上で重要な要素を占め、これらの把握が重要であることがわかった。
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