平成27年度は、キリシタン版の主要三辞書である羅葡日辞書(1595年刊)・落葉集(1598年刊)・日葡辞書(1603-04年刊)の語彙調査により、主に以下の2点を明らかにした。 1羅葡日辞書・落葉集・日葡辞書の漢語のよみの相違 (1)落葉集・日葡辞書両方に掲出されている漢語を比較すると、「玉色(ぎょくしき/ぎょくしょく)」のような呉音・漢音の違いや「禁制(きんせい/きんぜい)」のような連濁の有無など、よみの異なる語が約180あった(一辞書内で複数のよみがある語を除く)。また落葉集で、日葡辞書において「(語形が)AよりBの方がまさる」と注記されたAの方のよみを採っている語もみられた。(2)落葉集・日葡辞書でよみの異なる漢語について羅葡日辞書を加えて調査したところ、羅葡日辞書に使用されていた約40語では、日葡辞書と同じよみの語が多数を占めるものの、「乱逆(らんぎゃく/らんげき)」のように落葉集・日葡辞書の両形を収載する語も複数あった。上記(1)(2)は、当時のよみのゆれの実態だけでなく、各辞書の編纂目的および典拠・編者の違いを反映したものと考えられる。 2羅葡日辞書・日葡辞書の仏教語使用の相違 羅葡日辞書では、日葡辞書において仏法語(Bup.)と注記された語が、「解脱」など少なくとも6語使われており、注記のない語でも「回向」のように当時仏教色が強かったと思われる語が使用されている。この背景には、イエズス会での仏教語使用の厳格化と、ラテン語学習・日本語学習という辞書の編纂目的の違いがあったと考えられる。
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