1.フランス学士院本羅葡日辞書影印の解説・参考文献目録公刊 キリシタン版羅葡日辞書(1595刊)の現存諸本のうち、保存状態は良いものの閲覧が困難なフランス学士院本の影印に、三橋健氏による書誌解題と合わせ、本研究の成果を取り入れた解説および参考文献目録を付して公刊した。 2.羅葡日辞書と日葡辞書(1603-04刊)の文体・語彙の比較 (1)文体 人称代名詞や文末表現の選択をみるに、羅葡日は文末に nari(なり)を使うなど書きことばを基調にしているが、日葡では文末に gia (ぢゃ)や gozaru(ござる)を使うなど話しことばを中心にしつつ、書きことばも用例を付したり注記で示したりしながら取り入れており、文体に大きな相違がある。(2)注記語 日葡では方言語彙や仏法語、文書語など使用上注意が必要な語について注記が付されているが、日葡の約8年前に刊行された羅葡日においては、日葡の注記語が日本語訳にしばしば用いられている。これは羅葡日の凡例にもあるように、羅葡日が見出しのラテン語の語義を多様な日本語で示そうとした結果とも考えられるが、方言と共通語の混用例などから、羅葡日ではまだ日葡ほど、語ごとの知識が詳細でなかったためとも推測される。仏法語やキリシタン特有の意味で用いる教会用語については、日葡の時期にはキリシタンが使わなくなっていた用語・用法が羅葡日ではみられるなど、明らかに編纂年代の差を反映したものもある。 3.ベトナム語・ポルトガル語・ラテン語辞書(1651刊)の研究 日本のキリシタン版から大きな影響を受けたといわれるアレクサンドロ・デ・ローデによるベトナム語(安南語)・ポルトガル語・ラテン語対訳辞書の調査に着手し、羅葡日・日葡を編纂上利用した形跡が少ないこと、それにも関わらず、ポルトガル語やラテン語の中にいくつかの日本語語彙が含まれていることを確認した。
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