1.『羅葡日辞書』(1595年)『落葉集』(1598年)『日葡辞書』(1603-1604年)の相違 (1)同じ日本イエズス会による印刷物である『羅葡日辞書(ラテン語ポルトガル語日本語対訳)』『落葉集(漢字語集)』『日葡辞書(日本語ポルトガル語対訳)』の収載語のうち、「玉色(ぎょくしき/ぎょくしょく)」、「禁制(きんせい/きんぜい)」のように漢字語のよみが異なるものが少なくないことを明らかにした。特に漢字・ひらがなで印刷された『落葉集』は、ラテン文字の『羅葡日』『日葡』とよみが異なるものが少なくない。 (2)『羅葡日』と『日葡』の全体を比較し、文体および注記の面で位相の相違があることを明らかにした。文体について、『羅葡日』が文末にnari(なり)を使うなど書き言葉を基調としているのに対し、『日葡』は原則として、文末にgia(ぢゃ)gozaru(ござる)を使うなど京都周辺で用いられていた話し言葉を基調としている。また『羅葡日』では、後年印刷された『日葡』において仏法語あるいは方言など使用上の注記がされた語が少なからず用いられており、各語についての知識・認識が異なっていたことをうかがわせる。 2.『越葡羅辞書』(1651年)と日本キリシタン版 日本禁教のためベトナム宣教に従事することになったアレクサンドル・ド・ロードの『越葡羅辞書(ベトナム語ポルトガル語ラテン語対訳)』に、日本語の使用および日本キリシタン版の影響がみられることを明らかにした。ロードの辞書本文にcatana(刀)など日本語からの借用語はみられるものの、『羅葡日』『日葡』などキリシタン版辞書との直接的な影響関係は見出しがたい。しかし辞書に付された「ベトナム語概説」には、中国語と日本語の発音に関する記述など、ロードの日本語教本であったとみられるジョアン・ロドリゲス『日本小文典』(1620年)によったと思われる箇所がある。
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