研究課題/領域番号 |
15K02575
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
福嶋 健伸 実践女子大学, 文学部, 准教授 (20372930)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 丁寧語 / 候ふ / 統語構造 / テンス・アスペクト / モダリティ / 中世日本語 / 従属節と主節の違い / デス・マス |
研究実績の概要 |
【かつての日本語においては、「文中に丁寧語があるにもかかわらず、文末に丁寧語がない例が一定数見られる」ということを明らかにし、日本語文法学会で発表した】 現代日本語においては、文中に丁寧語がある場合は、基本的に、文末にも丁寧語が存在する。例えば、「思いがけなく伽藍滅亡に及びました事、仕方のない次第です」のような例では、「ました」と「です」が存在している。一方、「思いがけなく伽藍滅亡に及びました事、仕方のない次第だ」のように、「文中に丁寧語があるにもかかわらず、文末に丁寧語がない」というパターンは、現代日本語においては不自然である。このような事実は、既に先行研究で指摘されてきた。しかし、興味深いことに、現代日本語では不自然なこのパータンが、かつての日本語(丁寧語が安定してみられる中世前期の日本語)では問題なく存在するのである。次のような例である。 [源頼朝に対する平重衡の台詞である。南都焼討を弁明している。]「衆徒の悪行をしづめんが為にまかりむか(ッ)て候し程に、不慮に伽藍滅亡に及候し事、力及ばぬ次第也。」(『平家物語』下) これは、日本語の統語構造の変遷を考える上で小さくない問題であり、日本語文法学会第16回大会(2015年11月15日(日)、於:学習院女子大学)にて、「丁寧語が文中にはあるが文末にはない場合―中世前期日本語の「候ふ」と現代日本語の「です・ます」の統語的分布の異なり」というタイトルで発表した。現在の統語理論、及び、報告者(福嶋)が、複数回の科学研究費補助金を受けて明らかにした、テンス・アスペクト・モダリティ体系の変遷と照らし合わせて考えるならば、この丁寧語の統語的分布の変化は、「従属節と主節の区別がよりはっきりするようになったという統語的な変化が日本語にあったのではないか」と解釈できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
丁寧語「候ふ」の統語的分布が、現代日本語と中世日本語で異なることを、日本語文法学会において、はっきりと示すことができたことは、当初の計画以上の大きな進捗であったといえる。 最も重要な点は、「具体的な数値をもとに、明示的な議論ができるようになった」という点である。これまで、日本語に総語構造の変遷があった(らしい)ことは指摘されてきたが、具体的な数値を伴った議論は、ほとんどない状態であった。しかし、本研究の成果により、具体的な数値をもとに、日本語に総語構造の変遷が議論できるようになったというわけである。この点をクリアできたという点において、本研究課題は、初年次にして、最も大きな問題を解決したといえる。 さらに特筆するべきことは、丁寧語の統語的な分布が、時代によって異なるということが明確になったことで、次へのステップも明らかになったということである。本研究の解釈が正しければ、「中世前期日本語において、丁寧語(「候ふ」)が従属節内で生起する率は、現代日本語において丁寧語(「です」「ます」)」が従属節内で生起する率よりも高いこと」あるいは、「中世前期日本語において、丁寧語(「候ふ」)が主節末で生起し従属節内で生起しないという文の率は、現代日本語において、丁寧語(「です」「ます」)」が主節末で生起し従属節内では生起しないという文の率よりも低いこと」を予測するからである。この点を中心に全数調査と考察を展開していけば、これまでの研究では明らかにされてこなかった形式間の分布の偏りを、さらにはっきりと示すことができるようになると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、日本語文法学会第16回大会(2015年11月15日(日)、於:学習院女子大学)にて、「丁寧語が文中にはあるが文末にはない場合―中世前期日本語の「候ふ」と現代日本語の「です・ます」の統語的分布の異なり」というタイトルで発表した内容を、論文にまとめたいと思う。また、併せて、調査資料中に、丁寧語が生起する文と生起していない文について調査を行い、丁寧語が生起しない理由をさらに考察したい。 次に、「中世前期日本語において、丁寧語(「候ふ」)が従属節内で生起する率は、現代日本語において丁寧語(「です」「ます」)」が従属節内で生起する率よりも高いか否か」「中世前期日本語において、丁寧語(「候ふ」)が主節末で生起し従属節内で生起しないという文の率は、現代日本語において、丁寧語(「です」「ます」)」が主節末で生起し従属節内では生起しないという文の率よりも低いか否か」を調査したい。調査資料は、前回のものと同様のものを使用する予定である。検定の方法については、現在検討中である。調査後、その内容を論文にまとめたい。
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