前年度に収集した各種メディアにおける現実の字体・字形の使用例の中から、細かな検討を要すると判断される表記を抽出し、それらに対して関連する使用例を追加した。 その実例について、当該メディアの定めた表記規則、読み取りやすさへの配慮の有無、情報機器に装備されたフォントや筆記機材による物理的な制約条件、字体・字形の産出時における生理的な制約条件など、その字体・字形が生み出された背景にある要素について、種々の方面から分析し、考察を加えた。ある字体・字形を産出する各種のプロセスに存在する原因についても探究した。 既に行った関連しうる調査や試行的な調査の結果(『国字の位相と展開』『現代日本の異体字』『計量国語学』ほかに公表したもの)からも、必要に応じて情報を引用し、比較対象などとして利用した。 それと併行して、伝統的な字体の影響を考察するために、書体字典や各種データベースなど既存の成果も参照し、現代における年代やメディアにおける字体・字形の変化と変異の傾向の差を把握するために、蓄積、整理した記述をもとに分析と考察を実施してきた。 また、字体・字形の使用・選択時における意識や読み取り時に感じ取られている表現効果などを広く捕捉するために、文字使用者、受容者に対する意見の聴き取り調査も実施した。 その成果の一部を、学界のみならず広く一般にも示すことで、それらの実態に関する情報を普及するとともに意見を求めるために、研究発表等を複数回実施し、また論文にまとめて公刊した。併せて、一般向けに成果を示す内容をもつ書籍を刊行するために執筆を行った。
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