前年度に実施した長門・石見地域の推量表現についての調査(生え抜きの老年層対象、津和野町・益田市・須佐の3地点)の結果を、論文「石見方言・長門方言における推量表現形式「ロー」の使用状況」(2018年3月、『神女大国文』29、神戸女子大学国文学会)にまとめた。まとめる過程で必要となった詳細情報は、2017年8月に補充調査を実施して得た。 この論文では、推量表現、確認要求表現およびその周辺的意味を担う形式群に関して、形式と意味との整理を行い、老年層において、推量表現形式(「ロー」および「ジャロー(ヤロー)」)と動詞の活用(ラ行五段化)との関係、否定推量表現形式との関係、意志表現との関係を詳しく記述することができた。全国調査では推量表現形式としての「ロー」が衰退過程にあるが、この地域の老年層は「ロー」と「ジャロー」を併用していること、ヤロー類は受容していないこと、推量には意志表現に関わる動詞ラ行五段化形は使用しないことを確認した。一方で、確認要求表現については須佐の老年層がラム由来推量形式の「ロー」を名詞に直接後接させて使用するという「ロー」の文法的性格の変質が確認され、また益田や須佐では確認要求表現には動詞ラ行五段化形(意志表現と同形)を使う状況なども捉えることができた。 ただし確認要求表現に関わる部分体系については、詳らかにできなかった部分が残った。確認要求表現については推量形式だけでなく否定疑問形式や終助詞なども視野に入れながら今後確認していきたい。 国立国語研究所のプロジェクト(FPJD)での推量表現形式に関する分析結果は、「推量表現形式の分布とその変化―地域共通形式への収斂と脱推量形式化―」(2017年、『空間と時間の中の方言―ことばの変化は方言地図にどう現れるか―』大西拓一郎編、朝倉書店)にまとめた。
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