本研究では、平成27年度から科学革命以後の近代科学の発展という科学史的な観点、生物学の哲学におけるメカニズムの概念の研究という観点、さらに生物言語学と他の生物科学―特に行動生物学―との比較という観点の3つの観点から生物言語学のメカニズムの性質を明らかにすることを試みてきた。さらに、これらの研究に基づいて、統合問題に取り組むための概念的基盤を探求することを目標としてきた。この過程で、この目標を達成するために取り組む必要があるより根本的な哲学的な問題があることが明確になったため、本年度はこの哲学的な問題の考察を行った。より根本的な哲学的な問題とは、ガリレオが運動の科学において導入した科学の方法にまで遡って、理想化、因果性、実在の概念を明らかにすることである。しかし、この3つのどの概念についても科学哲学で現在でも異なる立場から議論が行われているため、まずその議論を明確にする必要がある。そこで、特に、ガリレオ的理想化とMcMullin(1985)が呼んだ方法が生物言語学においてどのように実現されているのかを明らかにすることを試みた。それと並行して、昨年度に引き続き行動生物学などにより近い形で因果性を含む経験的な研究が可能な言語現象の探索を進めることも試みた。さらに、理想化が近代科学の分野の対象領域やその発展段階の違いによってどのように異なるかという新しい観点から生物言語学のメカニズムの性質、初期理論からミニマリスト・プログラムに至る過程でメカニズムの概念がどのように変化したか、行動生物学など他の自然科学のメカニズムとの概念的比較などについても再考察を進めている。
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