研究課題/領域番号 |
15K02589
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金子 義明 東北大学, 文学研究科, 教授 (80161181)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 極小主義プログラム / 遂行仮説 / インターフェース / 時制解釈 |
研究実績の概要 |
本研究は、生成文法理論の極小主義プログラム(Minimalist Program)の枠組みにおいて、話者と聞き手を項とし、話者の発話行為に対応する述語を含み節としての構造を有する機能範疇である遂行投射(Performative Projection)を、統語構造の最上位に設定する極小主義遂行仮説の展開をめざす研究である。研究は、(1)極小主義遂行仮説の確立、(2)カートグラフィー・アプローチとの発展的統合、(3)新たな言語インターフェース理論の構築、の3点を具体的な目標とする。平成28年度は、前年度の基礎的研究で得られた成果を基盤とする展開的研究を行った。(1)については、Kaneko (2014)の枠組みで、前年度の研究成果として提案された分析を見直し、補部節の繰り上げに関わるメカニズムの詳細を明らかにする提案を行い、より精緻な極小主義遂行仮説確立へ向けた展開研究を行った。(2)については、主としてShlonsky (ed.) (2015)の批判的検討を行った。特に、Chomsky (2013, 2014)が提案したラベリング・アルゴリズムメカニズムとの関連で、カートグラフィ-・アプローチの節構造と極小主義プログラムにおける節構造概念とを統合する可能性について考察した。(3)については、Chomsky (2015)、Al-Mutairi (2014) 、Citko (2014)等の批判的検討を通して、遂行投射の存在に関わる概念的および経験的基盤に関する考察を行った。これらの研究の成果として、Kaneko (2016) "Remarks on Doubole Access Phenomena in English Finite Complement Clauses"、金子(2017)「時制の一致と二重接触における「最後の手段」について」の2編の論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3カ年の研究であり、展開研究年度と位置づけている平成28年度は、(1) 極小主義遂行仮説の確立、(2)カートグラフィー・アプローチの発展的統合、(3)新たな言語インターフェース理論の構築の3つの目標について、前年度の基礎的研究の成果を土台とした展開研究を行った。その成果として、Kaneko (2016)、金子(2017)を発表した。Kaneko (2016)では、時制の二重接触(double access)現象の分析を通して、前年度の提案をさらに精緻化し、補部節の繰り上げについて詳細な分析を提示し、遂行投射主要部によって補部節時制の評価時が同定されるメカニズムを明らかにした。金子(2017)では、時制の一致と二重接触に関わる規則が、追加的規則の適用のコストを伴うにも関わらず、適用の結果得られる解釈が有標性(markedness)を示さないことを考察し、これらの現象の共通要因となっている形態的制約を明らかにし、この制約のために得られない解釈を生み出す「最後の手段(last resot)」として追加的規則が用いられることを論じた。これによって、この2つの現象の解釈が有標の解釈とはならないことが説明されることが説明される。カートグラフィー・アプローチについては、新たな知見が手薄であったが、Chomskyのラベルづけアルゴリズムを用いたRizziの試みを手がかりに次年度では新たな展開をめざす。以上から、平28年度の研究については概ね順調に進展しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
総括的研究年度と位置づけられる平成29年度は、前年度までに得られた研究成果に基づいて、3つの目標ごとに総括的研究を行い、文献および研究情報の収集と整備を継続し、3カ年の研究全体の総括となる成果をまとめる。3つの目標ごとの研究内容は以下の通りである。 (1) 極小主義遂行仮説確立の総括的研究:前年度までの研究を継続して行うとともに、特に、極小主義プログラムの枠組みで遂行仮説を用いた分析を提案したMiyagawa (2017)を批判的に検討し、より妥当な極小主義遂行仮説の確立を目指す。 (2) カートグラフィー・アプローチとの発展的統合の総括的研究:カートグラフィー構造のラベル付けに関するRizziの研究を手がかりとして、カートグラフィー・アプローチと極小主義プログラムとの統合に向けての研究を行う。 (3) 新たな言語インターフェース理論構築の総括的研究:Chomskyの「3つの要因(three factors)」とフェーズ理論を踏まえ、上記Miyagawa (2017)等の批判的検討を通して、言語インターフェースの新たな姿の構築をめざす。 上記(1) 、(2)、(3)の研究に加えて、文献の収集と整理、言語データの収集と整理を行う。国内外の研究者との交流に努める。
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