研究実績の概要 |
本研究は、生成文法極小主義プログラムの枠組みにおいて、話者、聞き手、及び話者の発話行為の情報を含む投射範疇、すなわち遂行句が主節の最上位に仮定する極小主義遂行仮説を提唱し、この仮説のもとで統語論と他の部門との新たなインターフェースモデルを探求し、言語理論の進展に寄与することを目的とする。本年度は3年計画の最終年度であり、前年度までの研究成果が極小主義プログラムの今後の進展に対するもたらす帰結を考察した。フェーズ理論以降の極小主義プログラムに基づく研究では、かつての論理形式(logical form=LF)に相当する構造の存在基盤が失われ、LF表示によって捉えられていた一般化をどのように記述すべきか不明瞭になっていた。これに対して、Chomsky, Gallego, and Otto(2017)(=CGO(2017))では、音声部門および意味部門どちらへの転送においても、転送される構造はもとの構造から消去されず、転送後の派生の段階で音韻規則および意味解釈規則の適用を受けることが可能であると提案された。金子(2018)では、極小主義遂行仮説に基づき、1. 直示的時制の評価時の遂行句主要部よる同定、2. 時制の一致の現象における潜在的時制の一致環境の認可、3. 時制の一致調整規則の適用、4. 二重接触現象におけるCP節内の直示的評価時の遂行句主要部よる同定、5. 元位置のCP節の時制の直示性素性の削除、および6. 元位置のCP節の評価時の主節動詞による同定は、転送適用後の統語構造に言及して適用される解釈規則であることを示し、これらは上記CGO(2018)の転送の概念に関する新たな提案の妥当性を示す経験的根拠となることを論じた。また、金子(編集中)では、時制の概念をめぐり理論的研究成果を学習英文法に換言する提案を行った。
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