(1)創造的逸脱表現としての'Think different'という英語表現は、標準的な文法の観点からすると逸脱的である。しかし、動詞'think'、および形容詞'different'を中心とする関連表現の文法特性や使用条件を精査すると、とりわけ語彙意味論的視点からは、重層的な解釈を持ちうる創造的表現として容認される環境が、現代英語においてそれなりに整っていたのだと考えられる。この表現が容認される背景には、口語表現の命令文という形式上の特性に加えて、'think'と'different'というそれぞれの語の語彙意味論的・語用論的特性が複合的に関与しており、構文的にも語彙的にも局所的なある種の言語変化の発現であることを明らかにした。ただし、新奇な表現であるため潜在的に意図されるその重層的意味解釈が、母語話者にとっても常に容易に得られるわけではないという点にも注意が必要である。 (2)英語の結果構文の分類において、Washio (1997) の「強い結果構文」と「弱い結果構文」の二分法から外れる例外的カテゴリーとされた「見せかけの結果構文」の特徴を精査し、その描写対象となるのは変化動詞を伴う「変性事象(transformation event)」に特化されていること、そして文法的特徴として(a)叙述関係のミスマッチと(b)副詞的修飾関係の2点にあることを明らかにした。さらに構文的解釈において、叙述関係のミスマッチはタイプシフト (type shift) によって解消されているという分析を提示した。
|