研究課題/領域番号 |
15K02602
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
米倉 陽子 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (20403313)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文法化 / 受益者受動 / 語順の固定化 |
研究実績の概要 |
研究計画2年目にあたる平成28年度は,近代英語期における与格交代構文の受動態例・能動態例の採取を引き続き進めると同時に,構文と文法化の関係の理解を深めるため,談話標識のスコープ拡大と文法化の問題について考察を行い,後者を論考の形で発表した。本研究のメインテーマである受益者受動構文の拡大には,文法化だけでなく,構文化も関わっていると考えられるため,状況が非常に複雑になっている。二重目的語構文において,受益者項+移動物項という語順の固定化が起こり,さらに動詞の直後に来る項を間接目的語ではなく直接目的語として再分析したことが受益者受動発生の引き金になったとする先行研究もあるが,これが文法化の一種なのかは学者の意見が分かれるところである。そこで語順の固定化(すなわち統語的位置の固定化)とは逆の動きを見せ,なおかつ文法化の例か否かがしばしば議論になる談話標識の発達について考察を加えることで,間接的にではあるが,受益者受動構文の発生・拡大に対する理解を深化させた。結論から言えば,談話標識の発達を文法化の例とするかは結局,「文法」という概念の捉え方にかかっている。使用依拠モデル(usage-based model)では,言語の具体的使用がまずあり,そこから抽象的な文法規則が生まれると考える。言語の具体的使用には,話し手の心的態度表明や,話し手・聞き手間の相互作用も含まれるので,談話標識の談話語用論的機能を文法から追い出す積極的な理由はない。このように考えると,統語的位置が固定化されるか否かは,ある現象が文法化の例であるかどうかの直接的判断基準とはならず,「語順の固定化あるいは自由化によってどのような機能が新たに生まれたのか」を問題にする必要があることが分かる。二重目的語構文の受益者受動発達においても,この新たに発生した受動態構文の文法的意義を考える必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
語順と文法化の関係をどうとらえるかはある程度のめどがついたが,コーパス例の採取が少々遅れている。そのため,言語コーパスを用いて新たに採取・集計した例と,平成27年度中に得た受動態データとの比較・分析を行うという目標については,研究計画最終年度の平成29年度に持ち越すことになった。平成28年度中にpayの受益者項(にあたるもの)が主語になり,なおかつ移動物項(にあたるもの)が省略されている例,assignとdenyの受益者受動例,移動物受動例,与格構文受動例の採取を行ったが,もう少し採取動詞を増やしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画最終年度にあたる平成29年度は,構文ネットワークがどのように拡大し,また抑制を受けるのかを考察し,まとめを行う。最終的な考察結果は今年度中に査読付き学会誌へ投稿することを予定している。また,構文ネットワークと文法化のかかわりについても,考察を行う予定である。与格が対格機能を獲得する(ちなみに逆パターンはない)のは文法化の一種と見なしてよいと思われるが,なぜ与格付与を受けていた二重目的語構文の受益者項は,英語史において,一律に「必要不可欠な参与体を担う項」と見なされていったわけではないのか(実際,受益者受動構文の導入は動詞によりかなりのばらつきがみられる)を解明することが最終的な目的である。受益者受動構文が拡大する際,いかにも二重目的語構文にふさわしい動詞語彙であり,実際,租頻度でも最大であるgiveは遅くまで受益者受動導入に抵抗していたことが分かっている。反対に二重目的語構文に使用されうるが,租頻度から言えばさほど典型的な動詞とは言えないpayは早くから受益者受動に親和性を示していた。また,teachやdenyも早くから受益者受動を受け入れている。これらの動詞の受益者受動構文の異なる導入・拡大時期を整合的に説明したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度残額が6,026円でたが,当初の使用予定額とは誤差の範囲と考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度分と合算し,書籍や文具類購入に充てる予定である。
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