研究実績の概要 |
研究計画の最終年度であり、研究計画に従って、having said thatとその関連構文について、①新たな用法や意味拡張のプロセスを共時的コーパスからのデータで推定し、COHA などの通時的コーパスからのデータによって検証を行い、さらに、②新たに拡張した用法や意味と譲歩との関係を意味変化理論の観点から考察した。その成果として学会、研究会における発表を3件行い、論文4本を執筆した。 ①については、COCAの調査により、having said that, that said, that being saidが現代英語ではほぼ全ての例で譲歩の意味で用いられていることが確認された。さらに、いずれの構文でも、トピックを変えることを合図するトピックシフトという談話標識的な用法があることが明らかになった。また、いずれの構文も、thatの代わりにthisを用いた構文があり、主に情報の意味で使われるが、that構文に比べて圧倒的に頻度が少ないことも明らかになった。②については、譲歩節+主節という譲歩構文の特徴が談話的機能の発達の動機づけと考えられるという結論に達した。having said that構文では、典型的な譲歩の意味を表す場合、主節はthatが指す話し手自身の先行発言と対立する主張を表すが、そのような例は比較的少数で、多くの例で対立の度合いは様々であり、間接的なものも多い。さらに、主節が疑問や提案を表し、先行発言内容との対立というよりも、話題をシフトしていく例があることが観察された。対立からトピックシフトへという発達は英語のbutにも見られ(松尾他編『英語談話標識用法辞典』)、対立を表す表現が潜在的に持つ特徴である可能性がある。 以上の研究により、having said thatとその関連構文の分析を通して譲歩から談話標識的用法へという変化の記述とその動機づけを明らかにした。
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