現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、先行研究のまとめと評価を行うことを目標に掲げ、その中から仮説につながる新しい分析を少しでも提案することをめざした。まず、本研究を遂行する上での重要な現象である「文法化」に関する先行研究をまとめて踏まえるべき点と批判的に継承すべき点を明らかにした。 文法化に関しては古くはMeillet (1912), そしてGivon (1979), Janda (1980) Lehmann (1982), Traugott and Heine (1991) Allen (1997), Hopper and Traugott (2003)など様々なアプローチから多くの先行研究が存在するが、ほとんどの先行研究では、 「文法化」とは語彙的要素が、具体的な意味を失い文法的要素に変化した現象として分析されている。それに対して、統語構造の観点からの文法化という視点がないと、英語史において起こった様々な変化が分析できないということをある程度明らかにすることができた。この新しい文法化の概念を導入すると、一見「脱文法化degrammaticalization」(cf. Ramat 1992, Norde 2009)、つまり文法化への反例と見える現象が歴史には起こっているが、実はこれらは反例ではなくてこれも文法化の1つであるということが理解できることを明らかにした。 また、冠詞の研究は名詞句構造の解明を含むので、名詞句構造についての生成文法の先行研究についての評価も行った。名詞句の主要な部分は、語彙的意味を担う名詞が中心、つまり主要部である構造なのではなく、冠詞などの決定詞 (determiner)が主要部であるというDP仮説が,英語の変化を説明するのに有効な理論であることをみた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られた知見を活用して自らの仮説を構築していくことをめざす。仮説を検証するため、古英語、および、中英語のコーパスを活用して、数量的側面からも仮説をサポートする。得られた結果に基づいてさらに仮説の精緻化を図る。 また「文法化」の従来の分析に対して、「場の創出」としての文法化という仮説を構築し、名詞句や冠詞に関する英語において観察されている現象を説明出来るかどうか、詳細に検討する。 仮説の検証手段としてYCOE,PPCME2などのコーパスを使うことを考えている。これらの電子コーパスを活用して、主要部 D のソースとなる古英語における指示詞se/seo, 属格語尾 -esと数詞anの格差を数量的に捉えて、それぞれの発達の違いをその面から捉えられることを提示する。これらの語が文法化において果たした貢献度が違っていること、その違いは古英語における存在の仕方に起因することを示したい。また冠詞の本質を「統語的必要物」として捉えることで、現在、世界の言語に見られる格差が説明できることを証明したいと考えている。
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