研究課題/領域番号 |
15K02615
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
児馬 修 立正大学, 文学部, 教授 (10110595)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 項の継承 / Hybrid / -able / 生産性 / 派生形容詞 / ロマンス接辞 / ゲルマン接辞 / Naturalization |
研究実績の概要 |
2016年度末に中英語期の資料調査・観察を終える計画を立てたが、2017年度は、特に15世紀中頃の言語事実の観察に大きな進展があった。それは、ウェールズの神学者Reginald Pecock の著作の中に派生接辞-ableの「生産性」の高まりを示す、かなり多くのデータを発見することができた。特に、英語本来語の動詞語基にロマンス語由来の-able接辞を付加した、いわゆる混成語の例を数多く発見し、中にはOEDの初出を修正させる発見もいくつかあった。さらに、従来ほとんど考察されることがなかった項構造の継承を示す興味深いデータも採取することができたのも大きな収穫であった。これらの言語事実の発掘については、14-15世紀に書かれた5資料の調査結果としてまとめ、「後期中英語における -ableの生産性」と題して、立正大学大学院文学研究科紀要の論文として公表した。 上記の発見については、まだ個人語のレベルの言語事実なので、今後は、さらに15世紀の資料調査を拡大していく必要がある。また、混成語と項構造の継承に関する調査に加えて、-able形容詞の統語位置 (前置・後置修飾) に関する調査や、-able 形容詞の意味の「透明性」の問題についてさらに調査・分析を進めることが課題として残されている。 今回の発見で、本研究の取り組むべき時期を、中英語期に限定してもよいことが明白となった。なぜならば、本研究における重要課題の一つである-able の生産性の高まり、すなわち、英語の生産的な派生接辞として、-able が自国語に取り込まれる過程が中英語期に明確な形で観察されたからである。-ableを派生接辞として創出し始める萌芽期(ME前半期13世紀)の調査と、その生産性を増大・確立させる時期(ME後半期の14-15世紀)に的を絞って、さらに事実調査を深めていくという目標が明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中英語期の資料調査とその考察・分析については上記のように一定の成果も得られたので、その点では前進といえるが、中英語期全体から見ると、その資料調査はまだ不十分で、遅れているといえる。特に、13世紀については一部の調査は終わったものの、ableと-able双方の振舞いについてはほとんど有益な事実は得られていないので、その調査を継続しなければならない。14世紀については一定の調査は終えているものの、-able派生語が外来語としてそのまま使用されていた(英語の派生接辞としてはまだ確立されていない)ことを確証するには至っていないため、更なる調査が必要である。15世紀については上記の進展に着目して、-ableが派生接辞として確立していたことを示す、更なる言語事実の調査を進めてゆきたい。 残された課題という観点からも、遅れている点がある。まず、-able派生語の意味に関する考察・分析である。データ自体はそれなりの量が収集されているので、それに基づいた観察・分析を進めなければならない。また、自由形態素ableと接辞-ableの関係についても、同様の遅れがある。特に、able の中英語初期における性格を早急に明らかにする必要がある。 なお、当初の計画の一部であった初期近代英語期の資料調査については、データ作成補助作業が諸事情でほとんど進められなかったため、調査の実施が困難となった。この初期近代英語期には借入された -able語も依然として多く、さらには educable,demonstrableなどに見られるような切除現象などもこの時期における興味深い問題ではあるが、時間的な余裕もなく、本研究では今後、行わない決断をした。-ableの生産性が中英語期に見出されたという上記の進展が、本研究の焦点を中英語に置く方向に軌道修正させたことになり、それも、この決断に至った大きな理由の一つでもある。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度末に事業期間の延長を申請し、承認された。当初の計画では初期近代英語期にまで -able派生語の調査を行うことを含めたが、すでに中英語期末期に 派生接辞 -able の生産性の高まりがあることが突き止められたことを考慮して、今後は軌道修正をして、中英語の資料調査をさらに深めていくことに焦点を当てたい。 ME初期(13世紀)の資料調査については一部済ませているが、今年度さらに進めて、自由形態素 able と派生接辞 -able の関連性について分析・考察を進めたい。ME後期(14-15世紀)の資料調査についても、ある程度完了したものの、潜在する未調査資料もあるので、時間の許す限り、謝金によるデータ作成補助を仰いで、調査を追加・拡張していきたい。 今年度の後半期には、本研究の成果報告書の執筆を開始したい。その中で、-able の現代英語における特徴、形態論の理論研究における -ableの史的研究の意義、-ableの史的発達の記述 (特に、13世紀から15世紀までの記述、-able の生産性の高まりに関する記述を含む)に焦点を置いて、報告書をまとめたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は謝金によるデータ入力作業に関して、諸事情で研究補助員の雇用ができなかった。2018年度は雇用を確保し、その未使用額を当初予定されていた額に加算して、13世紀―15世紀の資料のデータ作成とその整理作業等にかかる費用に充て、執行する計画である。
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