研究課題/領域番号 |
15K02623
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研究機関 | 鶴見大学短期大学部 |
研究代表者 |
小倉 美恵子 鶴見大学短期大学部, 歯科衛生科, 教授 (60074291)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 複雑適応体系 / 言語進化 / 脳 / 時制 / 相 |
研究実績の概要 |
これまで語彙拡散による英語史上の音韻、形態、統語、意味、語彙変化の研究を、複雑適応体系内在する基本原理(淘汰、自己組織化、相転移、曖昧性と頑強性、ネットワーク)の観点から統合した。本年度は、更に進めて言語進化と脳の相互関係の観点から、文法化、特に時制と相の出現と脳の相関関係を光トポグラフィーを用いた実験に基づいて明らかにした。 人間が生来持った認知能力の顕現として、英語史上の動詞的範疇(時制、相、法、態)、名詞的範疇(格、性、数)、語順の発達、複文の発達の中に文法化を考察し、文法化された形態が累積し、言語はますます複雑化することを明らかにした。その中で時制と相において、人間が生来持った認知能力の顕現として文法化が起こったことを、光トポグラフィーを用いて実証した。 言語を形成したと考えられる認知領域に、mental time travelつまり過去の出来事を思い出したり未来の出来事を想像したりする認知能力がある。これらを司る脳の領域はfMRIによる実験で、前頭葉前部、頭頂部、中央側頭部などであることが分かってきている。本年度は、言語の時制と相の進化は人間の持つ時間についての認知能力が引き起こしたものであることを、光トポグラフィーを用いた実験で実証した。時制と相という概念は元々はっきりとした範疇があったわけではなく、機能は互いに絡み合った状態から生じた。英語では、古英語の談話構造と密接に結びついた統語構造が、中英語の緊密な統語構造に変化したことに伴い、迂言的な形態を持つ進行形および完了形、助動詞による未来形が現れた。このような変化に伴い、古英語では進行形、完了形はそれぞれ現在形、過去形で表され、脳ではmental time travelの時に活性化する領域が右脳、左脳ともに活性化していたが、中英語以降は進行形、完了形を司る部位が左脳に側性化したことを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画どうりに、時制と相の出現について歴史的データ及び光トポグラフィーによる実験両面から実証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
言語進化と脳の相互関係の観点からさらに研究する。 1. 語彙の樹状構造のより上部を構成するsmall-world networkの基盤となる多義語が、それぞれの意味の同義語を通してネットワークを形成して脳の普遍的概念構造を反映していることを明らかにする。 2. 初期近代英語以降のフランス語、ラテン語の借入、語尾の消失により大量に出来た名詞と動詞の同音異義語と、それに対して聴者による理解しやすさの結果生じた動詞と名詞のアクセントによる区別を、データと光トポグラフィーによる実験の両面から探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の交付額(1,690,000円)から使用した実支出額(1,689,359円)を引いた結果端数(641円)が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の交付額に加えて使用する。
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