科研費基盤研究(C)を平成17-26年度に得て、語彙拡散 (lexical diffusion)による英語史上の音韻、形態、統語、意味、語彙変化の研究を、複雑適応体系(complex adaptive system)に内在する基本原理(淘汰、自己組織化、相転移、曖昧性と頑強性、ネットワーク)の観点から統合した。本研究ではこれを更に進めて言語進化と脳の相互関係の観点から、膨大なデータと光トポグラフィーを用いた脳の機能実験に基づき以下の3点について研究した。 (1)人間が生来持った認知能力の顕現として、英語史上の動詞的範疇(時制、相、法、態)、名詞的範疇(格、性、数)、語順の発達、複文の発達の中に文法化を考察し、文法化された形態が累積し、言語は益々複雑化することを明らかにした。また時制と相に於いて、人間が生来持った認知能力の顕現として文法化が起こったことを、光トポグラフィーを用いて実証した。 (2)Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionaryの全動詞に基づき、英語の歴史的発達の中で、small-world networkを調べた。語の頻度が高い程、語の意味数は多く、語彙の樹状構造のより上部を構成し、この構造は歴史的に頑強であり、small-world networkの基盤となること実証した。更にsmall-world networkの基盤を成す多義語がどのように脳の中で構成されているかを、光トポグラフィーを用いて予備的な実験を行った。 (3)同音異義語は古英語、中英語、現代語と時代と共に累積し、話者と聴者の制約の結果起こりコミュニケーションにとって必要なものであることを明らかにした。また英語の同音異義語の大半を占める名詞と動詞の同音異義語は中英語以降、脳での活性化の度合いの違いとして顕現することを実証した。
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