研究課題/領域番号 |
15K02668
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
高橋 朋子 近畿大学, 語学教育センター, 准教授 (30635165)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 母語教育 / 継承語教育 / バイリンガル教育 / IT交流 / 外国ルーツの子どもたち |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本国内おける中国語母語教室のネットワークを構築し、ITを利用した相互活動による交流を行うこと、そこでの子どもや教員、保護者の学びを考察し、母語教育のありかたを再考することである。 平成27年度の準備期間を経て、平成28年度の計画は、① 国内(山形)の母語教室の参与観察、運営補助から1歩すすんで台湾とのIT交流を開始すること、② ビデオ交流を通して子どもや関係者がどのようにかかわり、どのような学びを得たか、を記録すること、③母語教育の推進にITがどのように貢献できるかを模索すること、④ カナダの移民家庭について引き続き調査を行い、カナダの多言語教育から日本が学ぶべきことを明らかにすること、であった。 1年を終えて、方向転換を迫られた計画もあり、日本で母語教育を進めるうえでの新たな課題の発見となった。①の山形の母語教室については継続的な参与観察や聞き取りは続行できたが、IT交流は、いくつかの要因により実施継続が困難となった。そこで、対象者を韓国に住む日本にルーツを持つ子どもたちへの日本語母語教育におけるビデオ交流に切り替えた。長年関係を構築してきた山形でビデオ交流ができなくなったことは非常に残念であるが、それによって日本の地域の教室が抱える課題がかえって浮き彫りとなった。また視点を変えて韓国との交流にしたことにより、これまでに見られなかった新たな実践を行うことができた。そこにかかわった韓国の子どもたち、保護者、交流相手となった日本人大学生のアンケート、インタビューを収集することができ、貴重なデータとなった。さらに、台湾の研究者の協力により、台湾での国際教育について情報を入手することができた。その中でも今後の台湾の教育の方向性は、母語教育や継承語教育に重要視したものとなることが明らかになった。 次年度の考察やまとめにむけたデータ収集ができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の予定は、平成27年度の基盤づくりをもとに、日本国内の母語教室を地域外の教室とIT交流によってつなぐことであった。山形の中国語母語教室は諸要因により途中で継続困難になったのは予想外ではあったが、言語を日本語に変え、韓国在住の子どもたちの母語教育機関と日本の大学生徒を結んで計3往復、合計8本のビデオレター交流を行うことができた。その後、子どもたち、その保護者、教育機関のスタッフ、日本の大学生から交流に関するアンケートを収集した。そのデータからは、母語教育が抱える問題、IT交流が抱える問題、異国で母語教育を一人で背負うマイノリティの親の心理的、物理的、経済的負担が明らかにすることができた。 国外の母語教育の調査研究においては、台湾の研究者の協力により、カナダ、アメリカ以外の海外の情報を入手することができ、非常に有益なものとなった。 以上、平成28年度の研究計画は、言語と対象を変更したもののおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、1.韓国とのIT交流をさらに改善し、継続していくこと、2.神戸市立本町小学校の中国にルーツを持つ子どもたちを対象とした中国語母語教室を新しい交流相手として台湾とのIT交流を始めることをメインにしていく。さらに、それらで得られたデータを考察し、まとめていくことを検討している。検討には、「動機」「学び」「多文化共生」をキーワードに母語教育が当事者だけでなく、日本人にも大きな貢献があることを明らかにしたい。 また、中間報告として春に異文化間教育学会で、最終報告として秋に国内外の学会で積極的に発表し、フィードバックを行い、実践を深めていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、山形への参与観察を約10回計画していたが、長期休暇で子どもたちが中国へ親とともに帰国したりしたため、母語教室が開催されない月があった。 そこで、山形への旅費が予算より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度から韓国の母語教育機関とも交流を始めた。平成29年度は、韓国での母語教室も参与観察し、ビデオレター交流の促進を図るため、韓国への調査を予定している。その旅費に充てたいと考える。
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