研究実績の概要 |
これまでも冠詞の学習と指導に関する研究は行われてきた。例えば、冠詞指導の効果に関する研究(例:Master, 1994; Takahashi, 2010)がなされ、指導の効果が報告されていたが、冠詞選択の過程(プロセス)に関するものではなかった。同様に、Cho and Kawase(2011) は、認知言語学の知見を取り入れて、典型的な可算名詞と不可算名詞との違いを学習者に教えることにより、冠詞選択の正確さを増すことができることを示したが、彼らの研究も冠詞選択の過程(プロセス)に関するものではなかった。 それ以外にも、学校現場での冠詞指導の立場からではなく、第二言語習得研究の観点から、「特定性」が学習者の冠詞選択の判断に及ぼす影響を調査したもの(例:Ionin, Ko & Wexler, 2004; Parrish, 1987; Thomas, 1989)があったが、それらの研究も、冠詞選択の過程(プロセス)に関するものではなかった。 そこで、本研究では、冠詞選択問題による調査と冠詞選択に関係する要因(名詞や指示対象物が、それぞれ、可算かどうか、定かどうか、特定かどうか、個別かどうか、具象的かどうか、聞き手に何を指しているか知られているか、同定可能か、唯一か)に関する質問紙調査を20名の調査協力者を対象に実施し、どのようなプロセスで冠詞の選択が行われているかを調査した。その後、得られたデータを最も的確に説明できる冠詞選択のプロセス・モデルをパス解析(AMOS使用)や決定木分析(R使用)を用いて分析した。その際、冠詞選択のプロセスに関してこれまで先行研究で提案されている4つの主要なモデルを分析の対象とした。 分析の結果、日本人英語学習者の冠詞選択プロセスが、Master(1990)によって提案されたモデルと最も一致することを示した。
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