研究課題/領域番号 |
15K02734
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岡村 三郎 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (30009724)
|
研究分担者 |
原口 厚 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90247239)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Mental lexicon「脳内辞書」 / ドイツ語基本語彙 / 認知的習得モデル / データ駆動型 / 基本語彙の中に存在する種々のネットワーク / ドイツ語基本語彙学習ポータル |
研究実績の概要 |
本研究は、ドイツ語基本語彙の認知的習得モデルを構築する事を目的とする。手法としては、データ駆動型の方法によりドイツ語の基本語彙の中に存在する種々のネットワークの値を算出し、認知的習得モデルの確実な経験的基盤を探る。それをもとにしてハイパーテキストを利用したドイツ語基本語彙学習ポータルを構築し、ドイツ語学習者および教育者の利用に供しようとする。 脳内辞書の中に存在する語彙の構造は種々の認知的なネットワークの形を取っている。これらのネットワークを、すでに構築した大きなコーパスからデータ駆動型の方法により抽出する。28年度にはこれらのネットワークの分析をさらに深化させた。語のテーマ別のネットワークに関してはtopic modeling toolを使い、新聞Die Zeitの1995年から2011年までのデータ(約2100万トークン)を分析し最終的に51のTopics(テーマ)を算出し、ぞれぞれに関連する基本語彙を確定し、これらのTopics(テーマ)を互いに連関するネットワークとしてグラフ化した。語親族のネットワークに関してはMorphistoを使い合成語、派生語の分析を深め、ワードファミリーのネットとしてグラフ化した。響きのネットワークに関しても響きが似通った語の分析を深め、その結果を響きのネットとしてグラフ化することができた。 最終的な目標である基本語彙学習ポータルの構築に関しては、既にできている基本語彙2000語までの「基礎語彙コンパクト」、「フラッシュカード」、「基礎語彙辞書」に加え、「テーマのネット」、「ワードファミリーのネット」、「響きのネット」のグラフを付け加え、それぞれの間でのリファー関係をいろいろと試している段階である。現段階の基本語彙ポータルは次のURLですでに広く使用に供している。http://japanisch.basic-german.com/。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる研究領域は、語彙の構造が持つネットワークの分析、そしてその成果を取り入れた基本語彙学習ポータルの構築の二つである。 語彙の構造が持つネットワークの分析に関しては、平成28年度にはこれらのネットワークの分析をさらに深化させた。語のテーマ別のネットワークに関しては、分析の結果を詳細に検討し、最終的に51のTopics(テーマ)を設定し、グラフ化を行った。しかしテーマの名付け作業ではデータ駆動型の方法を貫徹する事ができず、これを最終的にどう扱うかは29年度の問題として残っている。語親族のネットワークに関しては合成語、派生語の分析を進め、ワードファミリーのネットとしてグラフ化した。またコロケーションに関しても頻出する典型的な例をネットから集めGebrauchsmuster(使用の典型例)として「基礎語彙辞書」における各語の記述の中に多くの例をまとめている。響きのネットワークに関しても、響きが似通った語を「響きのネット」としてグラフ化しポータルに組み入れることができた。 またドイツ語基本語彙学習ポータルの構築に関しては、既にできあがった基本語彙2000語ポータルに、それぞれのネットワークの成果を組み込み、関連づけている。例えばテーマのネットで特定のテーマをクリックするとそのテーマに関連する一連の語(最も多くて200語まで)がフラッシュカードの形で一覧でき、学習者がそのテーマに関する語彙を覚えるための手助けを与える事が可能になっている。以上のように研究の進捗状況は概ね順調である。ネットワークの分析をさらに深化させること、とりわけ感情表現のネットワークの算出を済ませ、ポータルに組み込むこと。それぞれのネットワークと各語の関連を再確認すること、そしてより直感的に分かりやすく、使いやすい語彙学習ポータルを作り上げることが課題として残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
語彙の構造に関しては、これからも引き続き語彙の構造が持つネットワークの分析およびその可視化(グラフ化)を進めていく。とりわけ感情表現の分析を進めることにより、似たような感情的な特徴を持つ語のネットワークの算出を済ませ、可視化し、ドイツ語学習ポータルの中に他のネットワークとも関連づけ、分かりやすい形で取り込む必要がある。またテーマのネットにおいては、それぞれのテーマの名付けが適切であるかどうかを、他の語彙集なども参考にしながら吟味する必要がある。 これらの成果を取り込みながら、現在プロトタイプとして構築されたドイツ語学習ポータル(http://japanisch.basic-german.com/)を学習者にとっていかに使いやすいものにするか、いかに直感的に分かりやすいものにするか改良していく。その際には、このポータルを実際のドイツ語授業に取り込み、学習者に実験的に使ってもらい、それにより見えてくるこのポータルの持つ問題点を改善していく。それはユーザーインターフェイスの面から始まり、例文や、訳の点からは学習レベル(共通参照枠レベルA1-B1)との調整にまで及ぶと考えられる。 この研究の成果については2017年4月にベルリンで開かれたFaDaf(外国語としてのドイツ語学会)において報告し非常に好意的に受け止められた。これからも学会や、ドイツ語学習の場(例えば各大学、Goethe Institut、各語学学校、加えてNHKのラジオ、テレビのドイツ語講座等)での広報も行い、ポータル利用者を増やすことを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にはコンピュータ及び関連機器を購入する予定だったが、その費用を28年度末にドイツのベルリンで開かれたFaDaF学会において本研究についての発表をする費用に回した。その他、雑費、消耗品費、アルバイト代等の支出が予定を下回った。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度にコンピュータ及び関連機器の購入、及びドイツの共同研究者との打ち合わせ、学会発表または資料収集のための旅費に当てる予定である。
|